365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
2月21日は漱石の日。本日読むべきマンガは……。
『新装版 「坊っちゃん」の時代』
関川夏央、谷口ジロー 双葉社 ¥1,200+税
2月21日は「漱石の日」。
ときは1911年(明治44年)、文部省(当時)は夏目漱石に文学博士号を授与すると伝えたのに対し、漱石が「自分に肩書きは必要ない」としてこれを辞退する旨を書いた手紙を送ったのがこの日なのである。
『吾輩は猫である』、『坊っちゃん』、『草枕』、『虞美人草』、『三四郎』などをものし人気作家として不動の地位を築いていた漱石はこのとき44歳。
変人を自認し、頑固で知られた漱石らしいエピソードである。
『「坊っちゃん」の時代』シリーズは、漱石が教員を経て小説家として歩み始めた1905年(明治38年)から幕を開ける本作を第一部として、第二部『秋の舞姫』、第三部『かの蒼空に』、第四部『明治流星雨』、第五部『不機嫌亭漱石』の5冊をもって完結をみる(ちなみに文学博士号辞退のエピソードは、第五部に登場)。
漱石を中心に、森鴎外、石川啄木、幸徳秋水らに焦点を当てて紡がれたこの長編物語は、文学史ものというよりは大きく変わりゆく明治後期という“時代の青春”譚といえるのではないか。
文学の知識がなくても心配ご無用。後世の人間から見れば偉い文士さまたちの人間くさい、ときにはかなり問題アリな側面も見えて親近感を抱かずにいられない。
漱石が『坊っちゃん』の構想を友人らに語るなかで、ひょんなことから凹んでしまったり、弱いのに飲みすぎてくだを巻いたり……有名な肖像写真のダンディな漱石からは想像しにくいさまざまな表情に出会える。
本作の作画は谷口ジローだが、それこそ話題作『孤独のグルメ』(原作・久住昌之)のように淡々と、しかし随所におかしみと哀愁が漂う人間ドラマなのだ。
移りゆく世情のなかで、漱石は文学に邁進しながらも生活者として日々の雑事に頭を悩ませ、日本の未来に思いをはせる。
同時代の作家たちのなかでも、とりわけ漱石の作品はまったく古さを感じさせない。
現代に引き継がれる近代的な“個人主義”を広めたのはまちがいなく漱石で……私たちは意識しないうちに漱石の影響を受けているのだろう、とあらためて思った。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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