日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『SIREN 赤イ海ノ呼ビ声』
『SIREN 赤イ海ノ呼ビ声』第1巻
ソニー・コンピュータエンタテインメント(作) 神尾亘(画) project SIREN team(監) 集英社 ¥640+税
(2015年12月18日発売)
PS2用の和風ホラーゲームとして登場し、熱狂的なファンの支持が今でも根強い『SIREN』。
2006年の映画版は登場人物や設定が大幅に変更されていたが、本作は外山圭一郎ディレクターをはじめProject SIREN teamが完全監修した「原作準拠のコミカライズ」だ。
都市伝説「33人殺し」で知られる“血塗れの集落”こと羽生蛇(はにゅうだ)村。オカルトマニアの高校生・須田恭也(すだ・きょうや)が好奇心から足を踏みいれると、そこは血の涙を流す屍人(しびと)が徘徊する地獄だった……。
定番のシチュエーションで、和風ホラーは少なくはあるが『零』シリーズなど同類もなくはない。
それでも異色と言われる理由のひとつは、“主人公が弱い!”ということ。恭也は戦闘に慣れてない一般人だし、舞台は日本で『バイオハザード』のように銃があちこちで入手できるわけでもない。
終盤を除いて武器はほぼ「火かき棒」しかないし、屍人は倒しても生きかえってくる。「どうあがいても、絶望」というキャッチコピーは伊達じゃない。
恭也のほか、民俗学者の竹内多聞(たもん)や医師の宮田司郎など複数の主人公がいて、ストーリーが同時進行で(キャラを切りかえながら)繰りひろげられる。
それぞれの話が巧みに絡まり、ある主人公が聞いた呼び声が別のキャラ視点で「そうだったのか!」とわかる驚き。ただシナリオを進めるだけでは謎だらけで、文書を集めて徐々に真相が明らかになる。
が、全アイテムを集めても残る謎があり、ファン同士がネットで交流して考察を深めるコミュニティが広がっていた。
今回のコミカライズ版は、ゲーム版を完全再現する方向のようだ。
最大の特徴だったゲームシステム「視界ジャック」もうまくビジュアル化。プレイヤーが屍人の視界をジャック(乗っとり)して、奴らが自分たちが隠れている垣根の方向を観ている、見つからないようかがんで移動して……といったスリルがよみがえる。
ただストーリーをなぞるだけでなく、“補完”がうれしい。
原作ゲームではいきなり村から始まるが、その前日に何があったか、恭也を追いかける警官・石田が上司を射殺していたなど、本編では語られなかった空白が埋められていく。
公式ファンブックでも明かされていない謎が山積みの『SIREN』。13年間、ああでもないこうでもないと想像をめぐらし、“正解”に飢えていたファンにとってはすばらしいプレゼントだ。
<文・多根清史>
『オトナアニメ』(洋泉社)スーパーバイザー/フリーライター。著書に『ガンダムがわかれば世界がわかる』(宝島社)、『教養としてのゲーム史』(筑摩書房)、共著に『超クソゲー3』、『超ファミコン』(ともに太田出版)など。