365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
2月29日は「ビッグコミック」創刊の日。本日読むべきマンガは……。
『佐武と市捕物控』第1巻
石ノ森章太郎 小学館 ¥1,400+税
「ビッグコミック」は1968年2月29日に創刊された。
記念すべき創刊号が4年に1回の閏日に発行された背景には“次の閏日(4年後)までもてばめっけもの”というシャレもあったとか……。
「ビッグコミック」が創刊された60年代は、青年誌が続々とあいついで創刊された時期でもあった。それまで大人マンガといえば線数を極端に減らしたナンセンスマンガが主流だったところに、大人の鑑賞にたえるエンターテイメントとしてのまんが=コミックが求められたわけだ。
“大人のための中間小説的まんが雑誌”を目ざした「ビッグコミック」創刊号には、白土三平、手塚治虫、石ノ森章太郎、水木しげる、さいとう・たかをという当時のマンガ界を代表する5人の作家が顔をそろえた。
同誌が作家に求めた第一条件は「キャラクターが描けること」、今で言えば“キャラクターが立っている作家さん”ということだろうか。
表現として劇画的であっても、ひと目で人物がわかるマンガ的なわかりやすさが求められたということで、このビッグ5が選ばれたのも納得がいく。
ちなみに「ビッグコミックオリジナル」は'72年創刊、「ビッグコミックスピリッツ」は'80年創刊、「ビッグコミックスペリオール」は'87年創刊と“ビッグファミリー”は今も隆盛を誇っている。
後からできたのになぜ「オリジナル」というのか? それは連載作家に今まで描いていない作品に挑戦してもらい、他誌との差別化を図るという狙いがあったから……って、思いきり話がそれたが、今日は『佐武と市捕物控』のお話
『佐武と市捕物控』は、もとは「週刊少年サンデー」で1966年から連載されていた作品だった。
大江戸八百八町を舞台に、下っ引きの佐武と盲目の市やんがコンビを組み、さまざまな事件の謎を解いていくミステリー短編連作で、1968年にテレビアニメシリーズ全52話、1971年と1981年にテレビドラマが放送され、2015年にも佐武役に小池撤平、市役に遠藤憲一のキャスティングでスペシャルドラマ化されたのは記憶に新しいところ。
「週刊少年サンデー」で連載していた『佐武と市捕物控』をそのまま「ビッグコミック」で連載するというのは、著者の石ノ森本人の希望だったという。
少年誌から青年誌に移行したことで、ひとつの作品で2種類のテイストを読み比べることができた。「週刊少年サンデー」版では捕物のアクション的な魅力が強調されたが、「ビッグコミック」版では現代に生きる我々となんら変わらぬ人間の欲や心の闇、人情の機微などがきめ細かに描き出される。これによって江戸に暮らす様々な人々の生活や生き方を身近に感じることができたのだ。
映像的な変形コマ割り、写真の挿入や墨流しといった実験的なテクニックも多用され、ページをめくるたびに画面構成の美しさに目を見張らされる。
今読んでも新鮮な気持ちで読むことができる、まさに時代を越えた作品です。
<文・秋山哲茂>
フリーの編集・ライター。怪獣とマンガとSF好き。主な著書に『ウルトラ博物館』、『ドラえもん深読みガイド』(小学館)、『藤子・F・不二雄キャラクターズ Fグッズ大行進!』(徳間書店)など。4コマ雑誌を読みながら風呂につかるのが喜びのチャンピオン紳士(見習い)。