日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『大正処女御伽話』
『大正処女御伽話』第1巻
桐丘さな 集英社 ¥438+税
(2016年2月4日発売)
大正から昭和初期の雑誌で、「結婚相手は処女・童貞がいいですか?」というインタビューが実際にあった。
結果は、圧倒的に「処女・童貞がいい」。
性体験の有無というよりも、精神性の話。不貞は信じられない、一途であってほしい、という時代の空気が現れた話だ。
同時に、「本当に好きな相手に初めてをささげ、添いとげたい」という、真摯な思いでもある。
このマンガは、大正時代、処女であることに誇りを持った、14歳のおとめの話。
いいところの息子ながらも、右腕が動かなくなって「死んだこと」扱いで放棄されてしまった、志磨珠彦(しま・たまひこ)。
厭世家になりはてて、笑うことも忘れた彼のもとに送られたのは、買われた「嫁」のユヅこと夕月(ゆづき)。
どうせ厄介払いされた自分にあてがうために買われた女性なんて、と冷たい気持ちになってしまう。
ところがユヅ、「売られた」「やらされている」というそぶりをいっさい見せない。家事を笑顔でこなし、ハキハキとしゃべり、いつも幸せそう。
いっしょに寝ましょう、と言い出してくるので、珠彦がハラハラしていたところ、ちゃんと布団は別々にして「おやすみなさいませー」。
彼女の生き方は、珠彦の考えていたペースと全然違うもんで、戸惑うのなんの。
2人が寝る前にかわした会話を読むと、作品のテーマが見えてくる。
「私なんて初恋だってまだの処女ですよ そういうのは結婚するまでお預けですっ でも…必ず珠彦様に捧げますからね」
「君は…好きでもない男に己の純潔を捧げられる女なのかね?」
「…私は 側にいて色々な珠彦様を見たい 好きになりたい そう思っております」
恋はまだ始まっていない。
けれど、たくさん知ることで「好きになる」ことはできる。それは幸せなことではないか。
ユヅは、やらされているなんて考えていない。自分のために、珠彦の側にいたいと願っている。
彼女は、胸を張って処女(おとめ)であろうとしている。
憂いを帯びつつも純朴な珠彦、世間を知らず素朴きわまりないユヅ。
はにかむ2人の、恋物語未満な御伽話は、始まったばかり。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」