日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『アニメ監獄学園を創った男たち』
『アニメ監獄学園を創った男たち』
平本アキラ(作) ハナムラ(画) 講談社 ¥565+税
(2016年3月4日発売)
『監獄学園』、それは講談社マンガのなかでもアニメ化がもっとも困難と思われた原作のひとつ。
この物語は、そんなアニメ版『監獄学園』を創った男たちの激闘の歴史である。オッパイやお尻、股間のエリンギとメデューサ(ともに隠語)の見せあい勝負……映像化したとして、どうやって地上波に流すんだ。
毒をもって毒を制す。某声優にクレイジーボーイと言われた水島努監督をおいてほかに適任者などいない。
そこで打診しにいった場所が、どう考えても『SHIR○BAK○』をつくっている現場だ。
制作期間を計算に入れるとフィクションっぽいが、「アニメ業界での爽やかな成長物語」から「オッパイと尻だらけの学園もの」という振れ幅がクレイジーである。
原作の担当編集者が「正直がんばらないでいただきたい」というのは、がんばっては放送できないことになるから。
しかし水島監督は断る。
「やりすぎない」という文字は彼の辞書にはない……というのは、アニメファンならだれもが知ってる“事実”だ。
その制作風景は、熱い魂のぶつかりあいだ。芽衣子(裏生徒会副会長)のおっぱいってどんなイメージ? パンツが黒だとシワが見えないので毎回色が変わる「おみくじパンツ」にするかとか、みんな一歩も譲らない。
声優さんは馬鹿というより無茶ぶり。
『よんでますよ、アザゼルさん。』で貴族の役と聞いていたらウン○食うペンギンの貴族だった神谷浩史さんは、地上波じゃないOVAなら無茶しても……と勘違いしたまま快諾。
咳だけでジョーの感情表現をさせられる浪川大輔さん、かつて燃え尽きるほどヒートした興津和幸さんは「ツバ……美味しゅうございましたぁぁ!」とドMのアンドレが憑依した熱演。
なんで『監獄学園』に関わる人たちは、みんなこんなに馬鹿なんだろう。
原作を愛し、ファンをガッカリさせたくないからだ。
水島監督のやりすぎた絵コンテへの返答は、テレビ局の「考査」から返されてきたハリネズミのようなダメ出しの付せんに表れている。
自分でハードルを上げてもなお攻める、このプロ根性を見よ。
個人的にどのシーンが一番好きかといえば、水島監督が「神谷(浩史)さんが来るとお金が集まる」と正直すぎる説得をするところ。
次のアニメをつくり、お客さんによろこんでもらうためにも、「売れる」ことが大事。そこを正面突破してるから、水島さんは「アニメ業界で最も忙しい男」であり続けているのだ。
<文・多根清史>
『オトナアニメ』(洋泉社)スーパーバイザー/フリーライター。著書に『ガンダムがわかれば世界がわかる』(宝島社)『教養としてのゲーム史』(筑摩書房)、共著に『超クソゲー3』『超ファミコン』(ともに太田出版)など。