日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『とある結婚』
『とある結婚』
熊鹿るり 太田出版 ¥1,000+税
(2016年4月6日発売)
昨今、市民の間からの要望に端を発し、同性カップルの問題がオープンに語られる場は増えてきたように思う。
わが国ではまだ法的な同性婚は認められていないものの、2015年に東京都渋谷区で同性カップルを結婚に相当する関係と認める条例が可決されて以降、各地でこれに追随する動きが目立ち始めている。
さて、本作はカリフォルニア州ロサンゼルスに住む、女性カップルの物語。
早紀は学生時代の先輩であるアンナを追いかけて、ロサンゼルスに語学留学。それぞれが仕事に励みながら甘やかな同棲生活を営んでおり、カリフォルニア州で同性婚が認められるというニュースが舞いこむ。
2人が住むWestHollywood市は人口の約4割がLGBTである。
同性カップルの友人、親しくつきあうご近所さんも多い環境で、アンナはついに決心を固め、早紀に結婚を申し込むのだ。
しかし、アメリカが日本より先進的とはいっても、まったく差別の目がないわけではない。
おそらくはそれが理由で社員契約を反古にされてしまった早紀は、悩み苦しむ。愛している相手からの求婚だというのに、それを手放しでよろこべない自分にも嫌気がさして……。
同性カップルの揺れる心の内をつまびらかに描き、また家族へのカミングアウト、社会の目などハードルとなる問題にもしっかりと踏み込んだ作品。
カリフォルニア州で同性婚が認められるに至った歴史的経緯、同性カップルが家族として子どもを迎えることについてなどのコラムも挿入されているのも◎。
本作連載中の2015年、アメリカでは全州で同性婚が可能に。LGBTを特殊なマイノリティと考えるのは古い価値観、まさに今こそ読んでおきたい1冊である。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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