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『淡島百景』第1巻 志村貴子 【日刊マンガガイド】

2015/05/11


AwashimaHyakkei_s01

『淡島百景』第1巻
志村貴子 太田出版 \680+税
(2015年4月14日発売)


『青い花』『放浪息子』の志村貴子が2011年から断続的に発表している、名門歌劇学校に通うため寮生活を送る少女たちと、彼女たちを取り巻く人々の姿を描いた連作短編が、ついに単行本としてまとまった。

文字書きの端くれとして極めて恥ずかしいことだが、あまりこの作品に関してはよけいな言葉を並べたくない。

圧巻なのである。

セリフからコマ運びから、すべての要素が研ぎ澄まされており、読みながら何度も、作品の放つ凄絶な美しさに息を呑んだ。
そして、こぼれる涙をおさえることができなかった。

これから夢を追いかけようとする新入生の希望と不安。
覚悟を決めた上級生の穏やかなたたずまい。
才能の壁を身近に意識し、立ちすくんでしまった少女のやるせなさ。
道半ばで心折れてしまった天賦の才の持ち主と、そんな彼女に関わった人々の抱える、それぞれの苦い感情……。
ひとつの特権的な「場所」を中心にした、あまりにも繊細で、豊かで、せつない人間模様が、心の動きが、丹念に描かれていく。

今、まさに思春期を生きる人たちから、歳を重ね、どうにもならない後悔を抱えて生きる人たちまで、あらゆる人に届く普遍性のある物語だ。
ファンはもちろん、これまで著者の作品に手を出したことのない人であっても、ぜひ手にとってほしい。

年間ベスト入り間違いなしの、大傑作だ。



<文・後川永>
ライター。主な寄稿先に「月刊Newtype」(KADOKAWA)、「Febri」(一迅社)など。
Twitter:@atokawa_ei

単行本情報

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