日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ふれるときこえる』
『ふれるときこえる』第1巻
本名ワコウ 小学館 ¥429+税
(2016年4月18日発売)
『ふれるときこえる』はタイトルどおり、肌と肌が触れてしまうと相手の心の声が聞こえてしまう力がもたらす変化を描いている。
4人の少年少女の一方通行の恋が、この能力によって一筋縄ではいかない、じれったさを増しに増した青春ラブストーリーになっている。
主人公の泉澤噪(いずみさわ・そう)は、クラスに転校してきた地味な不思議系少女・長永(おさなが)さとりによって人の心の声がきこえる能力を“感染”させられてしまう。
さとり自身にもふれた相手の心の声を聞く力があり、さとりが好きになった相手に触れてしまうとこの能力が感染してしまうのだ。
同じ中学出身、同じバスケ部に所属する結川美桜(ゆいかわ・みお)の心の声を聞いてしまった噪。ひそかに思いを寄せていた美桜が、じつは親友の白瀬拓海(しらせ・たくみ)のことが好きだと知った噪は、大きく戸惑う。
じつは、このやっかいな能力はもとに戻すことが可能だ。
そのためにはさとりが好きな気持ちをあきらめることが必要である。そしてあきらめるためにどうすればいいか。
さとりは、噪と美桜の恋愛を成就させるため「噪の恋を全身全霊で応援する」と宣言するのだった。
さとりは噪に、噪は美桜に、美桜は拓海に。恋愛模様だけでもめまいがするのに、ふれるときこえるという不思議な能力がこの状況をどう左右していくのかが見どころだ。
恋模様だけではない。自分が好きな相手の恋を応援するさとりの姿は、どこか哀愁さえ感じる。これまでの彼女にいったい何があったのか、なぜ好きな相手に向けて「あなたの恋を成就させる」とほほえみながら言えてしまうのか。
彼女の姿がまぶしくてせつなくて、クラクラしてしまう。
「好きな相手に幸せになってほしい」というのは少女マンガにおいてもよく描かれてきたものだが、それが「週刊少年サンデー」で描かれるとこうなるのかと感嘆が漏れる。
誰か、カルピスを持ってこい! 熱気でうだるのに、でもノドには冷たく甘酸っぱい液体が流れこんでくるあの感じだ。
『ノ・ゾ・キ・ア・ナ』、『ノゾ×キミ』の本名ワコウによる新境地をぜひチェックしてほしい。
<文・川俣綾加>
フリーライター、福岡出身。
デザイン・マンガ・アニメ関連の紙媒体・ウェブや、「マンガナイト」などで活動中。
著書に『ビジュアルとキャッチで魅せるPOPの見本帳』、写真集『小雪の怒ってなどいない!!』(岡田モフリシャス名義)。
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