日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『前略、パリは甘くて苦いです。』
『前略、パリは甘くて苦いです。』第1巻
にしうら染 芳文社 ¥619+税
(2016年5月7日発売)
パリの菓子屋「ジェルミナル」にパティシエ修行にいった洋平。そこは、女性職人だけの店だった。
しかし、このマンガはハーレムものではない。
出てくるフランス人女性たちは、ずばっとモノを言う。
来たばかりで洗いものをさせられる洋平。作業が遅れたところにひと言。
「あなたの時計はずいぶんゆっくりね 学校で洗い物は習わなかった?」
きつい。
フランス語が流暢じゃなく店先に立てないと焦っていた時。
「お前のフランス語が完璧になるまで待ってくれってか?」
失敗して落ちこんでいる時。
「甘えんなよ」
「国が違う言葉が違うって それで言い訳して逃げ道作ってるだけじゃないか!」。
ほとんどのキャラが、洋平に対して取りつくろうことをしない。都合よくモテるなんてこと、いっさいない。
洋平が選択し決断をする物語だ。
彼はフラフラしている。なんとなく家が菓子屋だからお菓子をつくっていた。将来のビジョンはない。
立派に自立し始めているフランス人女性たちのなかで、彼は「自分」が何をしたいのか、自分に問う。
作中に出てくるカミーユという子どもは、見た目は少女だが、実際は男。
彼は普段からスカートをはいて、喜んでいる。
親がそうさせたのではない。かわいい服が好きで、本人が望んで着ている。たとえからかわれても。
カミーユが、自分がありたい姿を選択した結果だ。周囲の女性たちは、彼の思いをちゃんと認めている。
洋平にも、じつのところ「こうありたい」という思いはある。気をきかせることが得意な彼は、味にも思いやりがちゃんと出せており、それが個性になっている。
だがカミーユのように、はっきりと信念を形にするための「気づき」が、まだない。
叱られた「苦さ」は、しっかりしろと励ましてくれる「甘さ」だった、と理解するのにはまだまだ時間がかかるようだ。
にしてもヒロインのひとり、THE・ツンデレなフランチェスカかわいすぎじゃないですかね。
女性に厳しくされたい……みたいな人にもオススメです。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」