話題の“あの”マンガの魅力を、作中カットとともにたっぷり紹介するロングレビュー。ときには漫画家ご本人からのコメントも!
今回紹介するのは『春の呪い』
『春の呪い』著者の小西明日翔先生から、コメントをいただきました!
『春の呪い』第1巻
小西明日翔 一迅社 ¥580+税
(2016年4月25日発売)
この作品は、じつに病んでいて、こじれたストーリーで構成されている。
しかしそれが表立っていないがゆえに、奇妙な静けさの漂う物語となっている。
静かに病み、静かにこじれて、キャラクターたちはその静けさのなかで激しく葛藤する。
一読ですごいとわかるのだが、読みこむにつれ、その重さがじわじわと染みこんでくる。なんとも噛みごたえのある奥の深い作品が登場した。
ことの始まりは、主人公・立花夏美の妹、立花春が死んだことだった。
かわいくて気だてがよく、頭のいい春。
夏美にとっては、春がすべてだった。
夏美の両親は一度離婚し、生みの母は出ていってしまっている。
春だけが、夏美にとっての家族――いや、それ以上だった。
そんな春を、あっという間に夏美のもとからさらっていってしまった男、柊冬吾(ひいらぎ・とうご)。
夏美と春が冬吾と出会った理由からして、じつは歪んでこじれている。
夏美たちの立花家は、今となってはごく普通の中流家庭だが、父親の血筋は財閥の出。
その血筋が必要な柊家は、息子の嫁に立花の娘を欲しがった。
とはいえ、冬吾の母の目当ては妹の春ただひとり。
親の目論見どおり、春は冬吾とつきあい始め、心を奪われていく。
そして春が死んだ今、冬吾はもうひとりの立花の娘である夏美と交際を始めたいと言う。
血筋だけが目当てと思われる、一見非道な申し出を夏美は条件つきで承諾する。
「春と二人で行った場所に…… わたしを連れて行ってくれませんか……」
夏美は、自分から春に縛られにゆく。つまり、わざわざ自分から「呪われ」にゆくのだ。
春が心から愛した、冬吾を通じて。