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『春の呪い』(小西明日翔)ロングレビュー! 「死んだ妹の婚約者とつきあってます」――世界のすべてだった妹を奪った男と逢瀬を重ねる女の狂気

2016/06/08


夏美と冬吾はデートを重ねる。
すべて、冬吾と春がまわった場所を、再度訪れるデートだ。
春が好きだった夏美にとって、春の痕跡が感じられる場所はもう、そこにしかないのだから。

一方、冬吾である。
彼もまた、自覚半分・無自覚半分で病んでいる。

初めて夏美とまともに目が合った時、冬吾に罪悪感の衝撃が走る。その理由とは――!?

初めて夏美とまともに目が合った時、冬吾に罪悪感の衝撃が走る。その理由とは――!?

春とつきあいながらも、冬吾の意識はずっと別の方向に囚われていた。
デートを重ねるうちに彼の気持ちは募り――。

交際の終わりは思ったよりも早かった。夏美はショックの表情。冬吾は淡々とした様子だったが……?

交際の終わりは思ったよりも早かった。夏美はショックの表情。冬吾は淡々とした様子だったが……?

そして、最後のデートで冬吾の想いを知ることになる夏美。
彼への罪悪感はいっそう激しくなり、夏美を責めたてる。

この記事の1ページ目にある、この作品のカバーを、じっくり見てほしい。
まさに、この作品のストーリーの縮図となっているのがわかるはずだ。

夏美は春のお骨をしっかりと抱き、その春を見つめている――もしくは自分の想いに沈んでいる。
一方の冬吾の視線は、ちらりと夏美をうかがっている。
(ちなみに口絵も同様で、冬吾の視線は常に夏美に向けられている)

そして裏表紙には、ピンクのワンピースを着てはにかむように笑っている春。
その春と同じ色の花びらが夏美と冬吾の周りで舞い散り、2人をとり囲む。

春の存在はその花びらのように舞い続け少しずつ降り積もり、通奏低音のようにストーリー中をずっと流れ続ける。
「春」=「呪い」=「罪悪感」が、このマンガのテーマだ。

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人の心を、一番不自由にするのが罪悪感という代物だ。
それは自分を他人に縛りつけるように見えて(もしくは他人が自分を縛っているように見えて)、じつは自分で自分をただ縛っているということにほかならない。

興味深いのは、夏美と冬吾の罪悪感がひとつではなく、複数ということだ。
ぐるぐると幾重にも絡む、罪悪感という縄で巻かれた2人。
「春が好き」なのに「春の恋人を盗んだ」夏美。
春と夏美の、2人の罪悪感を背負いこむ冬吾。
なかなかにマゾヒスティックな、じつにこじれたキャラクターたちである。

この物語は『春の呪い』というタイトルではあるが、各々の存在に縛られた彼女らにかけられたのは、はたして本当に「呪い」であるのか、それともまったく別物なのか。
それはこのあとの巻で明らかにされるはずなので、楽しみに待ちたいところである。

第4話には春ならぬ「アキ」という人物がちらりと姿を見せているので、きっとそのヒントが隠されているのではと推察される。

また、絵柄にもぜひ着目したいところ。
少年マンガと少女マンガをつなぐような、主線が太めでさっぱりとした、そしていい意味で殺伐とした空気もあわせ持つ絵柄が、独特の雰囲気をかもしだしている。
これがもっとねっとりした線と絵柄であったら、きっとサスペンスホラーものになっていたことだろう。

オビには「大型新人衝撃のデビュー」とあるが、確かにこれはすべての読者を揺さぶる衝撃作だ。
結末を、刮目して待ちたい。



<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」

単行本情報

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