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今回紹介するのは、『渡くんの××が崩壊寸前』
『渡くんの××が崩壊寸前』 第2巻
鳴見なる 講談社 ¥602+税
(2016年6月17日発売)
第2巻の表紙絵の女の子の焦点の定まらない表情ときたら。 目の前でこんな顔されたら不安しかわかない。
主人公の高校2年生・直人と妹の鈴白(すずしろ)。
学校の時間以外べったりくっついて、仲よく幸せに暮らしていた。
ここに、幼い頃自分たちの畑を荒らしてトラウマになっていた紗月が登場。
彼女の、アプローチというには度が過ぎる執拗なまとわりつきで、鈴白との平和な生活は脅かされ、直人は悩まされ続ける。
タイトルの「崩壊寸前」の文字がじわじわ効いてくる。
単純に考えると崩壊しそうなのは、紗月が踏みこんできてめちゃくちゃになった生活や、追いつめられる精神のことだ。
同時に第2巻に入って、相互依存だった妹との関係が、いい意味で崩壊したのがわかる。
直人の平穏は、かなり閉じた考え方のなかにある。
コメディのように極度のシスコン・ブラコンが描かれているが、妹のことしか考えず自分をすべて犠牲にする彼の姿は、あまりにも危うい。ちょっと離れただけでお互いおびえるような関係で、このまま大人になって一緒に暮らし続けられるわけがない。
第2巻でついに、彼は自分から、妹がひとりで学校に行けるように突き放した。
適度な距離感を保てるよう、今の関係を一度ブレイクする勇気が出たのだ。
一方で彼が恋心を寄せていた石原紫(いしはら・ゆかり)のゆがんだ思いこみが彼を襲う。
清らかでほかの男子と違う性欲ゼロ人間。もちろんそんなわけはない。
紗月が直人のことをストーキング気味なのは変わらない。
紫は誰にも言ったことがない心の傷を、直人に打ち明けようとしている。
鈴白はほかの2人のことを考える兄に、さげすんだ目を向ける。
どうやら直人も含めて、全員がトラウマを抱えているようだ。
「崩壊」は、基本「悪化」のことを指した言葉。
しかし彼らくらいの年代にとっては、人間関係を再構築するための、精算の意味も含まれそうだ。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」