日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『エッジ・オブ・スパイダーバース』
『エッジ・オブ・スパイダーバース』
ダン・スロット/クリストス・ゲイズほか(作)
ジュゼッペ・カムンコリ/アダム・キューバートほか(画)
秋友克也(訳) ヴィレッジブックス ¥2,750+税
(2016年6月30日発売)
もっとも認知度の高いスーパーヒーローのひとり、スパイダーマン。1962年の誕生以来、その活躍はコミックにとどまらず、様々なメディアに活躍を広げ、膨大な数のバリエーションを生み出してきた。
古今東西、多元宇宙すべてのスパイダーマンが集結するというふれこみで、2014年にマーベルコミックスが展開したイベントが「スパイダーバース」である。
「スパイダーバース」自体は、各次元に存在するスパイダーマンをすべて食い尽くすことを目的とする一族・インヘリターズに対して、全次元のスパイダーマンが集結して対抗する……という展開であり、そのなかで様々なスパイダーマンたちのやりとりが描かれていく。
そして今回紹介する『エッジ・オブ・スパイダーバース』は、イベント本編に続く前日譚と様々なスパイダーマンたちの来歴を語る内容になっている。
今回収録されている作品のなかで注目したいのが、2009年のマーベル・ノワール企画で誕生した1930年代出身のスパイダーマン、インターネットでその人気が日本語圏でも加速したスパイダーグウェン、そしてロックスターからコミック作家に転身したジェラルド・ウェイの手がける(明らかに『新世紀エヴァンゲリオン』の影響を受けた)スパ//ダーなどが登場する、表題作シリーズである。
どれも話題性以上に作家性が強く、スパイダーマンという題材を通じて初登場であっても背後にある歴史が感じられる存在を作ろうという意気込みが感じられる。
近年のアメリカンコミックスの特徴として、おなじみのヒーローたちの平行世界バージョンが多数登場する展開がよく見られるようになったことがあげられる。
2000年代後半に入ってから2014年から2015年にかけては、DCもマーベルも多次元からヒーローたちのバリエーションが登場するイベントを多く手がけるようになった。
なぜこの時代に、二社が期せずして同じような傾向にいたったのか……は非常に興味深い題材であろう。
はっきりした答えは存在しないが、根幹になる神話、たとえばスパイダーマンであれば、噛まれた事でクモの力を得て、家族を失い、ヒーローになることを決意する……という基本の神話が存在することで、それをもとにしたバリエーションで新たに話を展開し、さらにそれを全体の流れにとりこんでいく事を可能にする……という、ユニバース共有型のアメリカンコミックスの最大の特徴が関係しているのかもしれない。
<文・Captain Y>
アメコミオタク。クリエイター・オリジナル作品専門の邦訳アメコミ出版社Sparklight Comicsから翻訳を担当した『ファタール』、『ベルベット』、『デッドリー・クラス』、『アクアパンク』が発売中。
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