『スパイダーマン』第1巻
池上遼一 メディアファクトリー \667+税
5月29日は漫画家・池上遼一の誕生日。
その独特のタッチで描かれる端正なキャラクターと、シビアなアウトローの世界という組み合わせで、ひとつの作風を確立。
代表作は『男組』、『傷追い人』、『クライングフリーマン』、『サンクチュアリ』などなど、枚挙にいとまがない。
というわけで、誕生日にどの作品を紹介しようかと悩みすぎて、池上遼一タッチがパロディ化された『魁!!クロマティ高校』をピックアップしようかと血迷いかけたのだが、やっぱり気を取り直して、デビュー作にあたる『スパイダーマン』を紹介したい。
この池上遼一による『スパイダーマン』は、原典のアメコミの世界観やキャラクターが広く知られてた今こそ、あらためて読んでいただきたい作品。
登場人物や舞台は完全にローカライズされ、ピーター・パーカーすら登場しない。なので、もちろんベンおじさんも死にません。貴重!
主人公は小森ユウという名の高校生で、舞台は東京。そして、初期のエピソードこそ映画にも登場したエレクトロやリザードといったヴィラン(悪役)が登場するが、徐々にオリジナル色が濃くなっていき、やがて完全に「池上遼一のスパイダーマン」と化す。
なにせ、まったくスパイダーマンが登場しないエピソードすら存在するほどなのだが、常に主人公が自分の力の暴走におびえたり、ヒロインの白石ルミ子が事故死してしまったりと、シリアスムード全開。
そもそも、原典に登場していたキャラクターもずいぶんと暗~い出自が描かれているなど、近年のアメコミヒーロー映画を先行しているとすら思える要素も多いのである(まぁ、どちらかといえばそのノリは、マーベルじゃなくてDCコミックのほうの映画化ですけど……)。
その独自展開は、今年の1月に逝去された平井和正が、途中より原作担当として参加したことが大きい点にも注目したい。
平井和正の短編小説が原作となっていたり、逆に平井和正が『スパイダーマン』に提供したプロットがウルフガイシリーズでも使われていたりと、その関係は非常に深いのである。
そして日本のスパイダーマンといえば、今年ついに東映制作の実写版『スパイダーマン』のオリジナルキャラである、巨大ロボット・レオパルドンが、本家マーベル・コミック(「スパイダーバース」と呼ばれる一連のエピソード)に登場したのも大きな話題となった。
小森ユウは登場人物のセリフで言及されるにとどまったが、いつかは本人がマーベル・コミックに登場する日も来る……かも? と期待せずにはいられない。
ちなみに池上遼一版『スパイダーマン』には、「東栄映画撮影所」なるものが登場。
このエピソードがまたずいぶんシビアな結末となるのはさておき、のちに東映が『スパイダーマン』に関わることになるのも、素敵すぎる偶然である。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。