『赤い鳩 アピル』第1巻
小池一夫(作)池上遼一(画) 小池書院 \600+税
きょう3月13日は、「新撰組の日」である。
文久三年三月十三日(1863年4月30日)、京都守護職の松平容保(会津藩主)から壬生浪士組に対し、会津藩預かりにする旨が通達された。つまり、新撰組が正式に発足したのがこの日。
それを記念し、新撰組副長・土方歳三の出身地・東京都日野市の観光協会が、3月13日を「新撰組の日」に制定した。
新撰組は昔から創作分野でも高い人気があり、現在でもヒラマツミノル『アサギロ』が小学館「ゲッサン」で好評連載中だし、空知英秋『銀魂』に出てくる真選組の面々は、もちろン新撰組をモデルにしている。
マンガ史をひもとけば、手塚治虫(『新選組』)や水木しげる(『近藤勇 星をつかみそこねる男』)といった大御所も題材にしているほどだ。
しかし、数ある新撰組作品のなかでも、もっとも異彩を放つのが『赤い鳩 アピル』である。
原作は小池一夫、作画は池上遼一という、劇画のゴールデン・コンビが新撰組を題材に描くのだから、さぞかし本格的な時代劇マンガなのでは……? と、思ってしまいがちだが、さにあらず。本作は新撰組を題材にしながら、なンと「日ユ同祖論」が展開されていくのだッ!!
日ユ同祖論とは、日本人とユダヤ人が同じルーツを持ち、古代イスラエルの「失われた十支族」が日本に渡来したと提唱する説であるッ!!
主人公・馬庭実行(本作オリジナルの架空人物)は新撰組隊士として池田屋襲撃事件に加わるが、そこで謎の宣教師オードル・ヘボンを捕らえる。
実行は沖田総司からヘボンの首を斬るよう命じられるが、ヘボンから日ユ同祖論を聞かされ、やがて実行、ヘボン、沖田総司の3人で、「失われた十支族」が日本に残した足跡を探す旅に出る。
……ストーリーや設定はなかなかブッ飛ンでいるのだが、なにしろ小池×池上のゴールデン・コンビなので、イロモノ感を抱くより前にグイグイと作品に引き込まれてしまう。
このコンビによる代表作『クライング フリーマン』終了直後の作品であるため、小池先生のネーム、池上先生の作画が冴えわたっており、土方歳三の殺陣は見ていてホレボレするほどの切れ味を感じさせるし、わけても沖田がカッコいいッ! 労咳を患った沖田が実行やヘボンと行動をともにする決意を固めるシーンは、うなるほどカッコいィ~~ンであるッ!!
ちなみに池上遼一といえば、水木しげるのアシスタントだったことでも有名。
NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』では、村井茂(水木しげる)のアシスタントとして倉田圭一という人物が登場するが、この倉田圭一こそが池上遼一をモデルにした役である(ドラマでは窪田正孝が演じた)。
水木しげる『近藤勇 星をつかみそこねる男』と本作『赤い鳩 アピル』で、両作家の描く新撰組を見比べてみるのも、なかなかオツな楽しみではないだろうか?
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama