日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『僕が私になるために』
『僕が私になるために』
平沢ゆうな 講談社 ¥552+税
(2016年6月23日発売)
性同一性障害(GID)の著者が、性別適合手術(SRS)を受け、身体的にも法律的にも「男」から「女」になるまでの道のりを描いた実録エッセイ。
性同一性障害について描いた作品自体は、最近では珍しくもなくなったが、性別適合手術(SRS)について、ここまで具体的かつ詳細に描いた作品はいまだかつてなかったのでは?
自身の不安や家族へのカミングアウトといった感情面はもちろん、性別適合手術(SRS)を受けるために必要なプロセスや、具体的な手術方法、手術前の準備や術後のリハビリ、戸籍変更の手続きまで……。手術そのものも相当たいへんそうだが(読んでるだけで下半身が痛く……!)、それ以外でも、こんなに長く険しい道のりが必要なんだ…という驚愕の事実に、ただただ圧倒される。
ともすれば重苦しいトーンになりかねない作品に、不思議なユーモアを与えているのが、著者の手術先であるタイのコーディネイターや看護士さんの底抜けに明るいキャラクターだ。
性転換者が日本ほど珍しくはなく、いい意味で大らかなお国柄もあるのか? 「地球サイズでみれば悩みなんてハナクソ by.ヤマザキマリ」だよな~と妙にポジティヴになれる。
「性」はあくまで個人を形成するアイデンティティのひとつに過ぎないが、男であることにずっと違和感を感じ、「女」になることで、やっと「私」らしくなれた著者のすがすがしい笑顔を見ると、人は「性」がしっくり来れば、こんなにも生きやすくなれるのだ! と感嘆せずにいられない。
性同一性障害(GID)ではなくとも、今の自分がなんかしっくり来ない……という人は、「性と自分らしさ」について考えてみれば、何かしら見えてくるものがあるかもしれない。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69