365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
7月22日はインドの国旗が制定された日。本日読むべきマンガは……。
『インドな日々』 第1巻
流水りんこ 朝日新聞出版 ¥680+税
カラーは上から順に、オレンジめいたサフラン・白・緑の三段ストライプ。
中段にはさらに、マウリヤ朝第3代アショーカ王が設けた記念塔のしるしにならった「法輪」(チャクラ)を配置した図柄。
これが、現在のインド共和国の国旗である。
この図柄の由来は、1921年にさかのぼる。
当時イギリス領インド帝国だったインドで、独立運動に励むガンディーが民族自治のシンボルとなる旗のデザインを提唱したのだ。
ガンディー案は白・緑・赤のストライプで、全面に糸車を大きく描いた図柄だった。
糸車はイギリスの機械製綿織物へのカウンターとなる伝統的な器具で、当時イギリス通貨排斥をめざす軸となった“糸車運動”を示した。
それから10年後、これがインド国民会議でサフラン色・白・緑に再配色され、糸車は中段におさまるサイズで整えられた。
そして1947年、今から69年前のきょう7月22日。
インド帝国が解体されインド連邦の独立がもう翌月に迫る頃、前準備として、新たな国旗が制定された。
色は1931年の国民会議バージョンのままだが、特定の運動を象徴する糸車のかわりに法輪を入れたデザインが採用。
こうして現在に至るインド国旗が生まれたのである。
さて、国旗ひとつとっても複雑な歴史を持つインドは、日本人になじみ深いような、遠いような、不思議な存在だ。フィクションにインド人キャラはたまに出てくるものの、戯画化されたものや時代がズレたものになりがちでもある。
そうしたなか、ノンフィクションでインドの細かいありようを教えてくれる貴重なマンガが『インドな日々』だ。
作者・流水(ながみ)りんこは、ホラーマンガからハーレクインロマンス小説のコミカライズまで幅広い作家で、筋金入りのインドマニアという顔を持つ。
かつて日本で年の9カ月を働き、残りはインドで放浪するのについやすという青春を過ごし、やがてインド人男性と結婚したほどの作者が、清濁いりまじるカルチャー体験を赤裸々に述懐するエッセイとなっている。
聖地にたたずんで朝日の美しさにしみじみしていたら、そこは近所の子どもが集まって野グソする“公衆便所”スポットだったとか、吸えばノドから血が出るほどせきこむ違法ドラッグ煙草を売るじいさんの話やら、人の遺体が河原で流れたり焼かれたり犬に食われたりするさまの目撃談やら、文章にするととんでもないシチュエーションが次から次へぽんぽん飛びだしてくる。
しかし、それらはあくまであっけらかんとした描き口で、ほめるのでもけなすのでもなく、よいでも悪いでもなく、ただ「ああ、そういうものなんだな」と親しめる描き口になっている。
インドの国旗が制定された記念日のきょう、その旗が背負う複雑な歴史のはてにもたくましく生きる人々に親しむことができる本作をおすすめしてみたい。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7