日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ペリリュー ─楽園のゲルニカ─』
『ペリリュー ─楽園のゲルニカ─』 第1巻
武田一義(作) 平塚柾緒(協) 白泉社 ¥600+税
(2016年7月29日発売)
ペリリュー島は、太平洋戦争での激戦地のひとつである。
2015年4月の天皇・皇后両陛下による慰霊の御訪問により注目を集めたことは、記憶に新しいことかと思う。
ペリリュー島は、フィリピンの東部、赤道近辺に位置するパラオ諸島の1島。
パラオ諸島は、日本軍の根拠地のひとつであり、そのなかでもペリリュー島には当時東洋一とうたわれた飛行場があったためアメリカ軍の攻略目標となった。
1944年9月15日、アメリカ軍上陸開始。約4万人のアメリカ軍に対し、日本軍の守備隊は約1万人。ペリリュー島は南北9キロ、東西3キロの小さな島なので、アメリカ軍は攻略を「スリーディズ、メイビー・ツー」(3日間、たぶん2日)と楽観していたが、洞窟陣地にこもり“徹底持久”を貫く日本軍に苦戦を強いられることとなる。
本作『ペリリュー ─楽園のゲルニカ─』は、『さよならタマちゃん』、『おやこっこ』などの武田一義が、戦史について多数の著書を持つ平塚柾緒の協力を得て、物語をつむいだ戦争マンガである。
本書の主人公・田丸一等兵は、漫画家志望のおとなしい青年である。
夜間の行軍中でも、満天の星空を見上げ、遠く離れた日本にいる母親に想いをはせるような、我々と同じような感性を持つ人物である。
彼の目に映るペリリュー島は、サンゴ礁の青い海に囲まれ、美しい森に覆われた「楽園」であったが、それがアメリカ軍の攻撃により地獄のような戦場に一変する。このあたりのギャップが強烈である。
また、田丸をはじめとする本書の登場人物たちは、頭でっかちの三頭身キャラである。
コミックスのオビの推薦文で、ちばてつやは「若くて可愛いらしい日本の兵隊さん」と表現しているが、こうした「可愛いらしい」日米の「兵隊さん」が戦場で殺しあう様は読者に強烈な印象を与える。
そして、第1巻の終盤で、田丸が戦死者の遺品を集めるシーンがあるのだが、そこで明かされる軍曹や上等兵たちの年齢が、22~25歳と若いのは衝撃的である。
20代の若者が、東京から何千キロも離れた地で屍をさらし、その遺体には黒山のようにハエがたかる……。戦争の残酷さを実感させられる一場面である。
第1巻では、上陸を試みるアメリカ軍との水際の攻防が描かれた。
これも海岸に死体が累々と横たわり、破壊された上陸用舟艇が無残な姿をさらす強烈なものであったが、ペリリュー島の戦いは、これからさらに熾烈さを増してくる。
洞窟陣地にこもった田丸たち日本兵とアメリカ軍との攻防。
そして、田丸たちはアメリカ軍だけでなく、暑さ・渇きとも戦わなければならないのだ。
そうした苦闘を、武田がどのように描いていくのか?
来年1月に発売予定の第2巻を期待して待ちたい。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。、「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「2016本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。