365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
8月27日は金丸信が自民党副総裁職を辞任した日。本日読むべきマンガは……。
『公権力横領捜査官 中坊林太郎』 第1巻
原哲夫 徳間書店 ¥619+税
1992年8月27日、自由民主党副総裁(当時)の金丸信が、東京佐川急便から5億円のヤミ献金を受け取ったとして副総裁職の辞任を表明した。
金丸信は竹下登の親戚(金丸長男と竹下長女が結婚)で、自民党最大派閥「経世会」の領袖。最盛期には「政界のドン」との異名を取っただけに、このスキャンダルは日本中を震撼させた。
きょう8月27日は「金丸が失脚した日」として記憶されている。
この「金丸失脚」事件を下敷きにしたと思われるのが、原哲夫『公権力横領捜査官 中坊林太郎』だ。
バブル崩壊後、外圧によって時限立法「公権力横領罪法」が成立し、内閣直属の「公権力横領取締室」に所属する主人公・中坊林太郎は東西銀行に潜入。
暴力団や政治家が受け取った“融資”(=ヤミ献金)を強引な手法で取り立てていく。
とはいえ、『北斗の拳』のケンシロウばりの林太郎が力ずくで悪漢をやっつけていく明快な勧善懲悪がベースとなっている。やはり原哲夫は、筋骨隆々で男気あふれる好漢と、情けない小悪党を描かせたら天下一品である。
そして林太郎の立ち向かう巨悪の黒幕こそ、政権与党である民主自由党の松丸派会長であり、元副総裁の松丸稲次郎だ。
そのルックスはあきらかに竹下登だが、立場的には金丸信がモデルであると容易に推測できる。
松丸稲次郎は暴力団組長と懇意にしており、またそのグループ傘下のカントリークラブが事件に関与するなど、まさに東京佐川急便事件の構図そのままである点も指摘しておきたい。
さらに作中では「呪縛」という単語がキーワードとなるが、これは本作が集英社「BART3230」にて連載を開始(1998年10月号から)する前年、第一勧業銀行の総会屋利益供与事件に際して近藤克彦頭取が「呪縛を断ち切れなかった」と発言したことに由来している。
同事件をモデルにした高杉良の小説『呪縛 -金融腐食列島2』でも「呪縛」の語が用いられているように、この当時の「政治とカネ」の問題において「呪縛」はホットワードだったのである。
このあたりは、ジャーナリストの佐高信が本作を監修しているからこそだろう。
なお、今年パナマ文書の公開によって話題になったケイマン諸島のタックスヘイブン(租税回避地)が作中で解説されているのも興味深い。
ちなみに日本に外圧をかけるのは、アメリカ合衆国大統領の「ジョン・クリムトン」。モデルはもちろん、現在アメリカ民主党から大統領候補の指名を受けたヒラリー・クリントンの旦那だ。
2016年の現在に読んでも色あせないおもしろさと、現在につながる話題性に富んでいるところが、本作『公権力横領捜査官 中坊林太郎』の魅力ではないだろうか。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama