日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『中間管理録トネガワ』
『中間管理録トネガワ』 第3巻
萩原天晴(作) 橋本智広・三好智樹(画) 福本伸行(協) 講談社 ¥565+税
(2016年8月5日発売)
かつて、ここまで圧倒的支持をファンからとりつけ、あまつさえ、本家を未読の人間さえも取りこんでしまう悪魔的スピンオフがあっただろうか……!
帝愛グループの幹部・利根川幸雄を主人公に据えた『カイジ』シリーズのスピンオフは、3巻にして絶好調。黒崎や一条といったおなじみのキャラも新たに登場するが、決して原作におもねることなく、あくまで“最凶のブラック企業で働く中間管理職の悲哀”で勝負する姿勢がすばらしい。
暴虐の限りを尽くす兵藤会長、思うような働きをしてくれない黒服の部下たち、会長のご機嫌を取りまくる同世代の同僚……。振り回され、尻拭いをし、屈辱を与えられ、それでも会社のために身を粉にして働き続ける利根川。
嗚呼、こんなサラリーマンの鏡のような人が、いずれ焼けた鉄板の上で土下座をすることになるなんて。
本作の時系列は『賭博黙示録カイジ』第1話の少し前にあたる。
利根川たちは会長の顔色をうかがいながらも、ようやく限定ジャンケンの企画を通すことに成功。
ヤリ手の黒服・左衛門三郎の提案により、会場も豪華客船エスポワール号に決定した。
ここまでが2巻まで。この3巻ではいよいよ記念すべき第1回・限定ジャンケンも目前となり、小道具の制作や入念なリハーサルが行われることになる。
考えてみれば、大勢の多重債務者を豪華客船に乗せ、特殊なゲームのルールを説明し、一晩限りの勝負を行わせるなんて一長一短ではいかない。
そこに至るまでに、どれだけ大勢の裏方が尽力したのか……。
20年前に「うひゃー、このマンガ、超おもしれー!」と絶叫しながら「ヤングマガジン」を読んでいた20代の頃の筆者に、そんなことを考える余地はなかった。
それが40代となったいま、利根川や黒服たちの苦労をしのびながら爆笑することになるとは。
ここまで本作がファンから絶賛される要因のひとつは、チーム制がとられていることだ。
原作を『さぼリーマン 飴谷甘太朗』などでおなじみの萩原天晴が担当し、作画を福本伸行のもとでチーフアシスタントを務めた直弟子の橋本智広と三好智樹が担当。
つまり、ひとりの作者が本家への偏愛をぶつけるのではなく、新しい発想でエピソードを構築する原作者×完璧に福本ワールドを表現できる作画タッグという絶妙なバランスで生みだされているのだ。
このまま巻を重ねていくことはもちろん、さらなるスピンオフで『ハンチョウ』や『クロサキ』や『イチジョウ』が独立していっても、このチームならどんどんおもしろい作品を量産していくに違いない。
もはやスピンオフの最高峰に到達したといっても過言ではない『トネガワ』。
ほとなく突破するであろう累計ミリオンなど、通過点にすぎない!
<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。今秋公開予定の内村光良監督『金メダル男』の劇場用プログラムに参加しております。