365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
9月7日は絶滅危惧種の日。本日読むべきマンガは……。
『藤子・F・不二雄大全集 大長編ドラえもん』 第5巻
藤子・F・不二雄 小学館 ¥1,800+税
1936年の9月7日、オーストラリア・タスマニア島ホバートの動物園で飼育されていたフクロオオカミの最後の1頭・ベンジャミンが死亡し、絶滅した。
フクロオオカミはタスマニア島に生息していた大型の肉食獣で、トラのような縞があり、カンガルーのようにお腹に袋を持つ有袋類だった。19世紀にオーストラリアに移住したヨーロッパ移民が家畜を襲うフクロオカミを害獣として駆除し、激減したのが絶滅の直接の原因だといわれている。
これにちなみ、オーストラリアではこの日を「絶滅危惧種の日」としている。
そんな9月7日におススメしたいのが藤子・F・不二雄の『大長編ドラえもん のび太と雲の王国』だ。
『雲の王国』は大長編ドラえもんの12作目(映画ドラえもんの13作目)にあたる作品で、雲の上には天上人が作った天上世界があり、地上で絶滅寸前に追いやられた数々の動物たちが手厚く保護され繁殖していた、といった物語。
“雲の上の天国”、“動物たちのパラダイス”、“クリーンエネルギーで循環する先端科学の都市”といったキーワードはお伽話のようなのどかさを感じさせるが、じつはかなり辛らつな内容の作品だ。
なにせ、進んだテクノロジーを持った天上人たちは、我々地上人による長年の環境破壊に耐えかね、穢(けが)れた地上世界を一掃する「ノア計画」を実行しようとしているのだ。
短編の『ドラえもん』では、たびたび絶滅動物を救うお話が描かれている。
生き残りのニホンオオカミの一家と出会う「オオカミ一家」(第4巻)、絶滅種をタイムホールで捕まえ新天地へと逃がす「モアよドードーよ、永遠に」(第6巻)や、実在したネッシーをネス湖へ戻す「ネッシーが来る」(第20巻)などだ。
ちなみにのび太はひみつ道具・国際保護動物スプレーを使い、世界にただ1匹の貴重な動物として扱われた経験がある(第10巻「のび太は世界にただ一匹」)。絶滅危惧種の気持ちには理解があるのだ。
『のび太と雲の王国』にもグリプトドンをはじめ、マンモス、フクロオオカミ、クアッガ、ジャイアントモア、メガテリウム、スミロドン、ネッシー(保護されてた!)といった絶滅動物たちが登場する。
さらに、「ドンジャラ村のホイ」(第20巻)の小人族の少年・ホイ、「さらばキー坊」(第14巻)に登場した進化した植物・キー坊といった印象的なゲストキャラクターたちが再登場し、さながら「オールスター映画」のようなにぎわいを見せる。
決して楽観的ではない重たいテーマの作品ながら、『のび太と雲の王国』が今なおファンから支持され続けるのは、こうした多彩なゲストの顔ぶれが揃う、ある種のお祭り感を感じさせるからだろう。
また、『のび太と雲の王国』は、藤子・F・不二雄の体調不良のため原作マンガのラストが描かれず、2年後にようやく完成されたという経緯を持つ。
脚本は藤子・F・不二雄が執筆しており、映画はしっかりラストまで作られ例年どおり公開された。しかし、完成までこれほど時間がかかった大長編ドラえもんはほかになく、その意味でもひときわ印象に残る作品だった。
いまやごく一部の例外をのぞいて、大型の野生生物はそのほとんどが絶滅危惧種だ。
しかし、『のび太と雲の王国』が発表された90年代前半当時に絶滅寸前だったトキは、野生絶滅は免れなかったものの人工繁殖などが試みられ、現在200羽弱にまで数を増やしつつある。
進むべき未来が一方向だけではないことは『のび太と雲の王国』でも示されている。
『のび太と雲の王国』を読んで、絶滅動物たちに思いをはせてみるのもいいかもしれない。
<文・秋山哲茂>
フリーの編集・ライター。怪獣とマンガとSF好き。主な著書に『ウルトラ博物館』、『ドラえもん深読みガイド』(小学館)、『藤子・F・不二雄キャラクターズ Fグッズ大行進!』(徳間書店)など。構成を担当した『てんとう虫コミックスアニメ版 映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』が発売中。4コマ雑誌を読みながら風呂につかるのが喜びのチャンピオン紳士(見習い)。