日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『架刑のアリス』
『架刑のアリス』 第6巻
由貴香織里 講談社 ¥581+税
(2016年8月5日発売)
『不思議の国のアリス』をモチーフにした世界での、兄妹同士のデス・ゲームを描いた『架刑のアリス』。オビには「大ヒット御礼! 既刊全巻大重版!」とあるが、最新刊の第6巻では、主人公の久遠寺星(ステラ)が慕う兄・是乃(ゼノ)の真の姿が明らかになるなど、ますます目が離せなくなってきている。
久遠寺家では、毎月1回定例の「お茶会」があり、四女のステラをはじめとする9人の子供たちは毎回全員参加が義務づけられるという「しきたり」がある。
長男・ゼノの19歳の誕生日に合わせて開かれた「お茶会」で、兄妹たちの母・織雅(オルガ)は、なんでもないことのように
「兄妹全員で殺し合いをしてほしいの/最後の1人になるまでね」ととんでもないことをいい出す。ゲームの期限は、ゼノが20歳になるまでの1年間。
最後に生き残ったひとりが、当主であるオルガからその地位を受け継ぎ、久遠寺家の富と権力の源泉である「永遠郷(エリュシオン)」を手にすることができる(エリュシオンは、人の生命を左右できるという代物で、その力を持つオルガは、76歳という実年齢にもかかわらず、じつに若々しい姿をしている)。
兄妹同士が戦う――といっても、久遠寺家の9人兄妹は、双子である三男・太陽(ソル)、四男・マレをのぞいて、血のつながりはない。久遠寺家の当主候補として、様々な場所から集められ、戦魂(ラルヴァ)と呼ばれる能力を持つ異能者として選抜された者たちなのだ。
次男の志度(シド)と対決したステラは、憑依していた戦魂「血塗れアリス」が覚醒。
銃火器の扱いに長けたアリスの戦闘力でシドを倒す。
その戦いの過程でゼノが命を失ったため、ステラはオルガにゼノの復活を懇願。
オルガは、ステラが最後まで勝ち残ることを条件に、ゼノを生き返らせる。
ところが、復活したゼノは性格が変わってしまっており、ステラは複雑な心境に……。
ステラと行動をともにする白髪の少年・月兎(ツキト)は、最初はただのストーカーにしか思えなかったのが、徐々に頼れるパートナーとなってきた。
月兎は、久遠寺家を守護する〈三柱〉のひとりである九重の孫だが、それ以外にも何かしらの秘密がありそう。そして、ゼノの真の姿とは? といった不可解な点が巻を追うごとに明かされていく。
第6巻では、ゼノの正体とともに、ステラが巻きこまれた5年前の飛行機事故の真相が明らかになる。真実が判明すると、それまでの段階で不自然に感じていた点(たとえばゼノの掌の傷)が腑に落ちて、カタルシスが得られる。
兄妹同士のバトルと並行して、久遠寺家の実態がじょじょに明らかになっていく謎解きの魅力も本書の読みどころといえるだろう。
一方、バトルのほうはといえば、ステラ(アリス)は、仲よしだった三女・紅亜(クレア)や、犬猿の間柄であった海(マレ)を倒し、次女・厘流(ミセル)といったんは戦ったものの戦闘を回避し、第6巻では長女の荊(いばら)と戦うこととに。
髪は金髪の縦ロールでドレスをまとい、
「よろしくて?/行きますわよステラさん!!」
といった古風な話ぶりの荊の武器は、彼女の肉体そのもの。強靭な筋力を生かして、巨大なハンマーを振りまわす荊に対して、血塗れアリスがどのように戦うかは気になるところだ。
また、これまで母親・オルガに隠れて目立たなかった、父親・細零(さざれ)も、何か思惑があるようで、ステラと荊の決闘に、何げない風を装いながら介入してくる。彼の動きにもご注目いただきたい。
殺しあいが嫌ならば、久遠寺家を離れればよい――とも思うが、ステラたち9人は、毎月の「お茶会」でエリュシオンを摂取しており、これを飲み続けなければ死んでしまう。
また、母親のオルガを倒せば、デス・ゲームは終了するが、「女王」的な立場にあるオルガに対して、子どもたちは手を出せない。
こうした八方ふさがりともいえる状況のなか、ステラは殺戮への道を突き進むのか、あるいは別の解決策が出てくるのか、ストーリーの先はまだまだ見通せない。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。、「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(年3回)。「2016本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。現在発売中の「ミステリマガジン」9月号にコミック評が掲載。