『架刑のアリス』第3巻
由貴香織里 講談社 講談社 \581+税
(2015年5月7日発売)
星(ステラ)は、資産家にして政界にも影響を及ぼす久遠寺家の四女。
久遠寺家のしきたりである毎月1回の「いかれたお茶会」(マッド・ティー・パーティー)に参加すべく、学校を早退すると月兎(つきと)と名乗る、まっ白い髪の弱々しい風情の少年から唐突に告白される。
ステラは、長兄の是乃(ゼノ)しか眼中にないと切り捨て、迎えの高級車で久遠寺邸に向かう。
森ゆきなつ『探偵少女アリサの事件簿 溝ノ口より愛をこめて』(原作:東川篤哉)のレビューでも言及したが、今年は『不思議の国アリス』刊行150周年のメモリアル・イヤーである。
本書にも「いかれたお茶会」「兎」など『アリス』を想起させるアイテムが盛りこまれている。肝心のアリスは――と思われる向きは、今しばらくおつきあい願いたい。
今月の「お茶会」には「一番大切な人」(パートナー)を仮装させて連れてくる、という約束事があったのだが、ステラはすっかり忘れていた(こうしたドジっ娘ぶりは、少女マンガのヒロインのお約束だ)。
そこでステラは、長男・是乃の提案を受けてお互いをパートナーとした。ステラはブルーのエプロンドレスをまとい、しましまソックスを身につけてアリスに仮装する。
そうして始まった「お茶会」の席で、久遠寺グループの総帥で兄妹たちの母でもある織雅(オリガ)が、突然告げた。
「兄妹全員で殺し合いをして欲しいの 最後の1人になるまでね」
じつは、織雅と久遠寺家の兄妹たちとは血はつながっていない。そして、兄妹たちも(双子の太陽(ソル)・海(マレ)を除いて)、他人同士である。
兄妹たちは、久遠寺家の当主候補として集められた者たちと推測される。そして、5年前にも一度選抜は行われたようで、生き残った8人が、今回のゲームに臨むこととなったわけだ(ステラは8人のうちのひとりなのだが、登場人物表によれば、久遠寺家の兄妹は全部で9人となっている。この謎も今後明らかになっていくことだろう)。
広大な閉鎖空間である、久遠寺家で繰りひろげられるデス・ゲーム。最後のひとりだけが、久遠寺家の富と権力〈永遠郷(エリュシオン)の秘密〉を掌中におさめることができるのだ。
是乃を殺した次兄・志度に命を狙われたステラ。その瞬間、ステラのなかの別人格〈アリス〉が目覚める。金髪・碧眼の〈アリス〉に変身したステラは、サブマシンガンを振りかざし、志度を倒す。
ステラは、愛する是乃の復活を両親に懇願し、条件つきで願いは認められる。その条件とは、デス・ゲームに勝ち残って久遠寺家の跡継ぎとなること――。
兄妹同士の殺戮劇、という殺伐とした設定は、リアルに見せられると引いてしまうのだろうが、由貴香織里の少女マンガ的な美麗な絵柄はそれを中和している。
そして、デス・ゲームの行方もさることながら、復活はしたものの人格が変わってしまった是乃と単なるストーカーと思いきや第3巻で意外な一面を見せた月兎――ステラの真のパートナーはどちらなのかも気になるところである。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。『本格ミステリベスト10』(原書房)にてミステリコミックの年間レビューを担当。最近では「名探偵コナンMOOK 探偵少女」(小学館)にコラムを執筆。