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『アキオ…』 村上たかし 【日刊マンガガイド】

2016/10/03


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『アキオ…』


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『アキオ…』
村上たかし 小学館 ¥630+税
(2016年8月30日発売)


メガヒット作『星守る犬』で知られる村上たかしの新作は、なんと「おっさんのラブコメ」。
主人公は若く美しい妻をめとって、この世の春を謳歌している50がらみの中年男。もちろん、そんな超絶うらやましいオジサンがデレデレしているのをながめているだけの作品ではない。
第1話からとんでもない悲劇が、このオジサンの身に降りかかることになる。

創業132年という老舗仏壇仏具メーカーの営業マン・香川アキオは“冴えない”が服を着て歩いているようなヨレヨレのサラリーマン。そんなアキオには、なぜか15歳年下のトウコという美人妻がいる。
どんな時も笑顔をたやさず、料理も上手な完璧な女性だ。3歳の娘・マリもかわいいさかりである。
どんな時も、妻と娘のことを考えるだけで、鼻の下が伸びっぱなしになるアキオ。

そんな幸せ絶頂のある日、トウコの元彼と名乗る男が現れたから、さぁたいへん!
やむにやまれぬ事情で別れた2人が再会し、再燃したというよくある話。間男とはいえ、きちんと手順を踏もうとする誠実な元彼を嫌いになれないアキオ。トウコの気持ちも痛いほど伝わってくるだけに、しぶしぶ身を引く決心をするのだが、「なんでも言うことを聞く」という2人に仰天の提案をする。

ああ、じつに村上らしい、ていねいな人間ドラマだ。
わかりやすい悪人を立てないことで、主人公は殺意を抱くことすらかなわず、心のやり場を見失うことになる。アキオが滂沱の涙を流しながらジタバタすればするほど滑稽なのだが、その様を見ているだけで、胸の奥がぎゅうと締めつけられる。

どんなに心根のいいヤツだって、間男は間男だ。読者としては、1発くらいぶん殴ってほしい。
でも、そんなことはやらない。そんなことをしたら相手のほうがスッキリするだけだからだ。
だからこそアキオは、嫌がらせにも似た最大限の譲歩を申しでる。自分が傷つくだけだということが、わかっているのに。

「名前+3点リーダー」というタイトルのなんと秀逸なことか。
アキオの悲哀が「…」にすべて集約されている。アキオが気力を振りしぼり、最後のリングに立ち、「私が主役だ」と心でつぶやく終盤戦には魂を激しく揺さぶられた。(勝ち目のない戦だとは思いますが)読者は全員、あなたの味方ですよ、アキオさん!

なお巻末にはドラマ「重版出来!」で話題になった、八丹カズオ(前野朋哉)の『タンポポ鉄道』が収録されている。原作者の松田奈緒子が描いたネームを、村上たかしが作画するというタッグ方式で生まれた劇中マンガだ。この収録版は巻末掲載のために、わざわざ村上が加筆して完成させたもの。『重版出来!』ファンの方、必読ですよ!



<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。今秋公開予定の内村光良監督『金メダル男』の劇場用プログラムに参加しております。

単行本情報

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