日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『アンの世界地図 ~It’s a small world~』
『アンの世界地図 ~It’s a small world~』 第5巻
吟鳥子 秋田書店 ¥429+税
(2016年8月16日発売)
酒浸りの東京の母のもとを離れて、徳島にやってきた少女・アン。
徳島の古民家「うだつの家」で、秘密を抱えながら暮らしているアキ。
完結巻の第5巻で、ともに生活していた2人は、心に抱えたわだかまりを乗り越える。
アンのキャラクターが、すごい。
彼女の普段の衣装は、フランスロココ調のクラシックスタイル。
貴族のファッションと生き方に憧れ、衣装はもちろん、金髪にカラコン、立ち居振る舞いまで、完璧になりきっている。もちろん、本来は日本人だ。
外に出るためには最高の身だしなみでなければいけないと徹底しており、農作業時にはアントワネット風農村ドレスを着用。
第5巻ではお出かけの際、フランス20世紀初頭ベル・エポック時代風ドレスをアキに作ってもらっている。
愛されたことがなく、文字どおり居場所もなく、幸せになった経験がなかった彼女。
苦しみを抱えていたがゆえに、クラシックロリィタ衣装で心を装甲していた様子がうかがえる。
しかし巻を重ねるにつれ、アキに救われた彼女は、自信をもって、自分のために衣装を身にまとうようになる。
どんなに奇異の目で見られようとも絶対に衣装・マナー・身だしなみを変えなかった彼女は、最後まで貴族であろうとし続けた。
第5巻ではアキと「うだつの家」で、大きな騒動が起きる。そこでいっさい動じずに見守り、どんと構えてアキの心の支えになったのはアンだった。その姿は、母のようだ。
「わたし……自分の現実はよくわかってるんですけれども それでもやっぱり貴族みたいに生きていきたいんです……」
「滑稽なのはわかってます けれど 最後までやり遂げれば本物だって……言ってください」
アンの言葉は、アキの家のみならず、過去のドイツの事件なども引っくるめて、人の生き方すべてを肯定していく。
家族の悩みは誰もが持つだろう。でも「家族である」というのは他人が決めることではなく、自分がそう思いこんで、達成していく時に「本物」になるものだ。
いつまでも貴族であり続けようとするアンは、もう立派な貴族。
クラロリ衣装のアンの生き方が肯定されるとき、アキも、また読者も、アンに肯定してもらえるのだ。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」