365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
9月21日は世界アルツハイマーデー。本日読むべきマンガは……。
『母はハタチの夢を見る』
逢坂みえこ 講談社 ¥429+税
少しずつ、秋の深まりを感じる9月21日。今日は世界アルツハイマーデーだ。
1994年9月21日、スコットランドのエジンバラで「第10回国際アルツハイマー病協会国際会議」が開催されたことにちなみ、会議の初日であるきょうが「世界アルツハイマーデー」と制定された。
さてアルツハイマー、とな。
還暦を過ぎても、親はまだまだ元気。還暦どころか70歳を過ぎてバリバリ働く師匠から、仕事の心構えを教わることも多い。
そんなわけで、若輩者の耳には「アルツハイマー」も「認知症」もどこか遠い響き。身近な人がアルツハイマーになることも、自分がそうなることも、ぜーんぜん想像がつかない。
しかし『母はハタチの夢を見る』はどうだ。認知症を発症した75歳の母親にとまどう家族を描いた作品だが、いってしまえば「ボケちゃった」お母さんがとてもかわいらしく描かれている。
作中には、母が大好きな映画『ローマの休日』になぞらえたシーンがたくさん登場する。
体は75歳、心はハタチの母は、アン王女さながらに愛らしい仕草を見せる。髪を切ったり、ジェラートを食べたり、ちょっとしたことにはしゃぐ様子がなんともほほえましい。
圧巻は、75歳の自分の顔が映る鏡を、母が素手でたたき割るシーン。
年老いた自分、あるいは「自分の頭のなかにあるのとは違う自分」を受け入れることの壮絶さが、粉々になった鏡で表現される。
母は、父のことも息子のことも、もう思い出せない。娘時代を生きる母にとっては、半世紀連れ添った夫も、大事に育てた息子も「知らない人」だ。
大切な人に忘れ去られてしまったら――。受け止めるまでには時間がかかるだろうし、もしかしたらずっと受け止められないままかもしれない。
母を見守る夫と息子も、戸惑いや寂しさを隠せない。
「長生きしてね」。それは本心からの願いだけれど、自分や家族が年を重ねるなかで、避けて通れないことがある。
シンプルな絵はアルツハイマーに向き合う家族の表情を、鋭く豊かに描き出している。そしてラストでは、深刻な現実のなかにある希望が描かれる。
じつの母に「あなた どなた?」と言われる日が来ても、家族をつなぎとめるものが、ここにある。
<文・片山幸子>
編集者。福岡県生まれ。マンガは、読むのも、記事を書くのも、とっても楽しいです。