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『赤塚不二夫の旗の下に フジオプロの青春』 てらしまけいじ 【日刊マンガガイド】

2016/10/04


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『赤塚不二夫の旗の下に フジオプロの青春』


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『赤塚不二夫の旗の下に フジオプロの青春』
てらしまけいじ ジーティーオー ¥1,150+税
(2016年8月30日発売)


赤塚不二夫は、『ひみつのアッコちゃん』『おそ松くん』『もーれつア太郎』『天才バカボン』『レッツラゴン』などを世に送りだした、天才ギャグ漫画家である。彼は2008年に72歳で亡くなったが、その作品は今も生き続けている。

本作は、赤塚の全盛期である70年代にアシスタントを務めた、てらしまけいじが、当時を回想した作品。
赤塚不二夫と、彼が率いた「フジオプロ」のすごさが伝わってくる実録マンガである。

物語は、てらしまが、1970年9月に新宿区下落合のフジオプロに入社するところから始まる。
1970年といえば『天才バカボン』、『もーれつア太郎』が連載中で、赤塚不二夫が売れっ子だった時代である。

さぞやハードな仕事ぶりだったろう――と思いきや、当時のフジオプロでは、赤塚を筆頭に所属している漫画家・アシスタントが仕事場で遊びまくっていたのだ。
赤塚不二夫は、銀球鉄砲の撃ちあいやカエルのおもちゃでの競争に興じたり、セーラー服を着てスタッフらを笑わせたり――といったかたちで、とことん遊んでいた。赤塚は「寄行も愚行もおもしろいマンガのため」という考えの持ち主で、こうした遊びもマンガの肥やしとしていたのだろう。

そんなに遊んでいて原稿が間にあうのか心配になるところだが、フジオプロには、作品を手早く仕上げる独特の制作システムがあった。
それが「アイデア会議」(本作では「アイディア会議」と表記)であった。

赤塚は、パロディ漫画家の長谷邦夫、『ダメおやじ』の古谷三敏、『トイレット博士』のとりいかずよし、といったフジオプロ所属の漫画家たちとバカ話をしながらブレインストーミング的に作品を練っていく。
その「アイデア会議」には担当編集者も参加した(「少年マガジン」の編集者・五十嵐隆夫や「少年サンデー」の編集者・武居俊樹といった顔ぶれだ)。こうしたやり方で「早い時だと2~3時間でネタが1本出来」たという。

ネタができると、マンガを描くのも完全分業制の流れ作業である。
赤塚がキャラクターの立ち位置などをラフに描き(「アタリ」を入れる、という)、そのアタリをもとに下絵担当のアシスタントが絵にしていく。下絵担当は『釣りバカ日誌』の北見けんいちや、ギャグ漫画家のあだち勉(あだち充の兄)といった実力派なので、仕事は着実である。
その下絵をペン入れ担当のアシスタントがなぞって、背景担当、仕上げ担当と回って完成、というもので、こうした体制だからこそ量産が効いたのだろう(そして、これだけスピーディな作画でも「間に合わない!」となって、生まれたのが伝説の実物大「天才バカボン」なのである)。

ところが、「アイデア会議」のような集団制作体制は、優秀なスタッフがそろわないと機能しなくなる。古谷、とりいが独立し、五十嵐や武居が人事異動で担当を離れ――ということが、作品の出来ばえに直接影響することになったわけである。
赤塚も、「アイデア会議」が両刃の剣である点には自覚的であったのか、自分と同じように仲間とアイデア出しをしながらマンガを描いていたてらしまに対し「オレの真似すんのやめな ヤバイぞ」と諭したのであった。

本作での一連のエピソードからうかがえるのは、赤塚不二夫という漫画家の親切で面倒見がよい人柄と、ギャグを追求するうえでの真摯な姿勢である。
こうした人物なればこそ、ブレイクする前のタモリを見出し、彼のために自室を貸して、自分は仕事場で暮らす、ということができたのだと思う(だからこそ赤塚への弔辞で、タモリが「わたしもあなたの数多くの作品のひとつです」と感謝の想いを口にしたのであろう)。

本作は、赤塚不二夫とフジオプロを理解するうえでの格好の入門書であると思う。
本作を読んで、赤塚不二夫に対して興味がわいたなら、赤塚不二夫『これでいいのだ 赤塚不二夫自叙伝』(文春文庫)、武居俊樹『赤塚不二夫のことを書いたのだ!!』(文春文庫)といったものにも手にのばしてみてほしい。



<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。、「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(年3回)。「2016本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。現在発売中の。「ミステリマガジン」9月号にコミック評が掲載されています。

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