365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
9月29日は接着の日。本日読むべきマンガは……。
『HUNTER×HUNTER』第7巻
冨樫義博 集英社 ¥390+税
9月29日は、9(く)・2(ツー)・9(く)=「くっつく」という語呂合わせから、「接着の日」とされている。
材質の違いを問わずいろいろなモノをくっつける、便利な接着剤。
家庭の日用から産業・医療まであらゆる分野を支える、技術文明の申し子だ。
ただ、くっつけた面が目に入らなくなる都合上、そのありがたみはいつも意識から抜けやすい。
そこで、業界団体のJAIA(日本接着剤工業会)が、縁の下の力持ちな接着剤について理解を広めようと2010年に制定した記念日が「接着の日」である。
さて、そんな「接着」をバトルマンガの能力として極めた有名なキャラクターがいる。
そう、『HUNTER×HUNTER』のヒソカだ。
奇術師の装束で軽口をたたいて他人を翻弄する謎多き男・ヒソカ。
今は成長途中の主人公・ゴンをはじめ、快楽殺人狂かつバトルマニアとしての欲求を満たせそうな相手を舌なめずりしながらつけ回す、孤高にして最強を自認する変態さんだ。
宝・遺跡・動物など、様々なものを求めるハンターたちを描く本作で、純粋な悦楽のために人をハントするヒソカは鮮烈な印象を与える。
その一方、彼が持つ能力は、いってしまえば地味なもの。その名は「薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)」と「伸縮自在の愛(バンジーガム)」。
いずれもオーラを変化させて特定の性質を帯びさせる力で、前者は物の表面を覆って偽装するのに便利な質感変化。そして後者は、オーラをゴムのように伸びちぢみさせ、ガムのように「くっつく」トリモチ状の道具とするスキルである。
特に「伸縮自在の愛」は応用性が抜群。
敵と自分をくっつけて至近距離の戦いを強いる。投げた武器を手元にくっつけて引き戻し、死角を突いた軌道で不意打ちする。切りとばされた自分の腕を断面にくっつけて無傷を装う、etc...。
簡単な原理だからこそ策略しだいで千変万化するという、味のある能力なのだ。
なお、最近の休載前の展開では、本作を語るに欠かせない大物とヒソカが、命をかけた直接対決をいきなり実現。
こんな重要キャラ同士のどっちかが退場するの!? と、読者を驚かせるなか、そこでもやはり「伸縮自在の愛」が大活躍した。
ヒソカと対照的に複雑な能力を持つ相手との頭脳戦の末、映画『ワールド・ウォーZ』のゾンビ雪崩のような大量の生き人形の群れに囲まれる苦境を、物をくっつけるだけの能力でどうさばくか。そして本当に生死を分ける決着がどのようにつくのか……未読の方は単行本化を楽しみに待とう。
きょうはまず「接着の日」ということで、「伸縮自在の愛」が初めて紹介される第7巻以降を読みなおし、「くっつける」力の奥深さを再確認してみてはいかがだろう。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7