日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『江戸川乱歩傑作集 孤島の鬼』
『江戸川乱歩傑作集 孤島の鬼』
江戸川乱歩(作) 長田ノオト(画) ぶんか社 ¥1,000+税
(2016年9月5日発売)
江戸川乱歩の代表長編『孤島の鬼』は、これまでにも何度かマンガ化されてきている。
なつかしいところでは高階良子が手がけた『ドクターGの島』があり、最近では山口譲治の『江戸川乱歩異人館』(第12~13巻にも取りあげられている)。新しいところでは、本コーナーでも紹介したnaked ape『孤島の鬼』第1巻がある。
これらのコミカライズは映画化やドラマ化等に合わせたものではない。そうした要素もなく、繰り返しマンガ化されるのは『孤島の鬼』がそれだけ魅力のある作品だということなのだ。
そうしたラインナップに長田(おさだ)ノオト『江戸川乱歩傑作集 孤島の鬼』(全1巻)が加わったわけである。
長田ノオトは1986年に雑誌「プロムナイト創刊号」(近代映画社)に掲載された『永遠少女・1986』でデビュー。その後、ホラー誌や少年耽美誌に作品を発表してきたベテラン漫画家である。
江戸川乱歩の小説を熱愛しており『江戸川乱歩の押絵と旅する男』、『江戸川乱歩 屋根裏の散歩者』、『江戸川乱歩のパノラマ島奇談』といった作品を生み出してきている。
『屋根裏の散歩者』は、江戸川乱歩の同題の短編小説をベースに、ほかの乱歩作品のエピソードも盛りこんで長編マンガに仕立てたものだ。
また、表紙が強烈な『パノラマ島奇談』でも、主人公・人見広介の素性等に長田独自の設定を加えている。
一方、本作では、長田は愚直なまでに、原作に忠実なマンガ化を行っている。
主人公・簑浦金之助と美青年の医学者・諸戸道雄との同性愛的な描写に力が入っていたり、原作では豪傑風の素人探偵・深山木幸吉が美青年になっているようなところはあるものの、ほぼ原作どおりにストーリーを展開し、ちょっと厚めのコミックス1巻分におさめてくれている点は、乱歩ファンとしてはうれしいところである。
ちなみに、本作の刊行までには紆余曲折があった。
『孤島の鬼』は、1998年から翌99年にかけて雑誌「オール怪談」(蒼馬社)第4号~第12号に連載された。
連載終了後単行本化する予定であったが、その計画は版元・蒼馬社の倒産により宙に浮いてしまった。そのため本作は、今回が初の単行本化となる。
このあたりは、ぶんか社のファインプレーといってよいだろう。
なお、単行本化にあたり、長田は大幅に加筆修正を加えた。だから、雑誌版を持っているのであれば、それは貴重なものといえるだろう。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。、「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「2016本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。