365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
10月18日は冷凍食品の日。本日読むべきマンガは……。
『範馬刃牙 10.5 外伝 ピクル』
板垣恵介 秋田書店 ¥419+税
人類文明の発展は、空間・時間をいかに乗りこえるかという取り組みの産物といえる。
たとえば乗り物や建物は、人間の移動と生活の可能範囲を大きく拡げるものだし、書物や録音媒体は過去の情報を未来に再生することで時間をこえた作用をひとにもたらす。
人間の命にかかわるところでいえば、食料もまたしかり。
放っておけば短期間でいたんでしまう食べものを、月・年単位で保存していつでも食べられるようにする工夫は、人類文明による時間への挑戦として常に進められている。
その挑戦に対する大きな解のひとつが、いわゆる冷凍食品だ。
寒冷地で雪下に掘った穴を天然の低温保存庫にする知恵は古来からあったが、現在われわれが「冷凍食品」という時は、およそ20世紀以降、外食産業の成長と一般家庭への冷蔵庫の普及にともない研究が進んだ商品群を指す。
“手作りのあたたかみ”のドグマからは寂しい生活の記号あつかいされることもあるが、冷凍食品を開発する人々の熱意というものも存在するわけで、そこはまあ考え方しだい。
ともあれ、今や庶民生活のおともとして欠かせない存在なのは事実である。
本日10月18日は、まさにその冷凍食品を記念する「冷凍食品の日」だ。
10月の「10(とお)」で冷凍の「とう」に響きが通じるのと、食品を凍らせて保存する時に品質や栄養価がうまくキープできるのが世界共通でマイナス「18」度であるから、ということにちなんでいる。
制定した日本冷凍食品協会は、この時期さまざまな広告でアピールし、冷凍食品をアレンジした料理の試食会や識者によるトークセッションをおこなうなどイベントを催している。
さて、マンガで冷凍食品……と考えた時に強烈な存在感を放つものがある。
大人気の格闘技マンガ『範馬刃牙』の外伝『ピクル』だ。
人類誕生が700万年前という常識をくつがえし、1億9000万年前のジュラ紀の岩塩層からティラノサウルスとともに塩漬けの凍結状態で発掘された超野性人・ピクル。
現代科学の力で蘇ったのち、拳銃の弾をくらって平然とする屈強な獣人の脱走を恐れた科学者が軍隊に拘束を頼むも、最新鋭のパワードスーツすら素手でヒネり倒され収拾つかなくなる。
その矢先、ひとりの軍人がピクルに歩み寄り……というのが主な内容。
おもしろいのはピクル覚醒のきっかけで、科学者が好奇心から、ピクルとともに見つかった恐竜の肉を切り取りステーキにして食べた時、かつて捕食していた肉のいい匂いに刺激されて目覚めるという流れになっている。
そう、これはティラノサウルスを冷凍食品として描いた作品なのだ……!
ピクルは当初、塩漬けと説明されてはいたが、表現的には事実上のコールドスリープ。
さらに『範馬刃牙』合流後は彼が生きたとされる時代が変更され、塩だけでなく寒冷期に凍りついた設定も加わっている。
よって今回のお題で取りあげるのに問題はないわけだ。ないんですよ!
なお、『ピクル』連載開始は2007年。
「週刊少年チャンピオン」では『侵略!イカ娘』の第1話と同じ号の掲載だった。
もうそんなに昔なのか……と思いながら単行本をひらき、久しぶりに本作を読むのもまた、時間を超越する“解凍”的な営みであろう。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7