365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
10月26日は原子力の日。本日読むべきマンガは……。
『パエトーン』
山岸凉子 KADOKAWA ¥370+税
10月26日は原子力の日。
1956年のこの日に国際原子力機関へ日本が参加したこと、また、1963年の同じ日には、茨城県東海村にかつてあった動力試験炉「JPDR(Japan Power Demonstration Reactor)」が日本で初めての原子力発電に成功した日でもあり、この2つの出来事を記念するために制定されたという。
しかし、今となってはこの記念日を無邪気に称えることはできない。
あの東日本大震災によって、原子力や、原子力発電所のおそろしさを味わってしまったのだから。
そこで、その折にWeb上で無料公開されたことでも話題になった山岸凉子の『パエトーン』をもう一度読み返しておきたい。
もともと、チェルノブイリ原子力発電所事故を受けて、1988年に少女誌「ASUKA」にて発表された作品だ。
ギリシャ神話に登場する日輪の馬車を暴走させたパエトーンを、制御不能な原子力を使いこなそうとする人間になぞらえたタイトルだが、おおむね三頭身でギャグ風に描かれた著者が語るエッセイマンガの体裁をとっており、核分裂や原子力発電のしくみについて、素人でもわかるように解説している。
セリフ外の書き文字でツッコむなど、コミカルな語り口でありながら、たとえばプルトニウムの名の由来、地獄の王プルトーンの姿にぞっとするし、あまり知られていない1957年の「ウラル核惨事(キシュテム事故)」のイメージとして描かれたキノコ雲のおぞましいこと。
人類はどうせ滅びる……との論調に「それは楽天的でなければいえないセリフです」と、バッサリ返すバランス感覚にも脱帽する。
まさにバブル景気の真っ最中に突きつけられたこの作品。掲載から数十年が経過し、あの震災による大事故も含めて、原子力をとりまく様々な状況も変わってきている(作中の『ヨハネ黙示録』にまつわる記述は、あくまで一説ととらえたほうがいいだろう)。
浅はかなおごりから自滅したパエトーンも愚かだったが、安易に絶望したり、目をそらし続けたりするのもまた愚かである。
このマンガを入り口に、原子力、さらには人間の欲について知っておくことが、プルトーンの鎌の刃先から少しでも遠ざかる道なのではないか。
ちなみに、冒頭に挙げたJPDRは長い月日をかけて、解体・廃炉作業が完了していることも記しておきたい。
<文・和智永 妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。