365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
10月29日はホームビデオの日。本日読むべきマンガは……。
『電影少女』第1巻
桂正和 集英社 ¥390+税
10月29日は、ビデオの歴史で大きな節目が記念される日である。
1969年、当時一般人とは縁遠かったVTR機器を家庭用に広めるための世界初の規格「ソニーカラービデオプレーヤー」がこの日に発表されたのだ。
しかし、当時のビデオはまだ高価かつカセットが大きすぎたため一般家庭に普及しきらず、さらに小型化した手軽な新規格が求められた。
そこで激しいシェア争いを繰り広げた果てに最後のツートップとしてぶつかった規格が、そう、松下電器の「VHS」とソニーの「ベータマックス」だ。
この“ビデオ戦争”の覇者となったのはVHSだが、それも後にはDVD、BDといったデジタル時代に役目を譲り、諸行無常の流れに去ったしだいである。
さて、そんなビデオテープが重要な題材になるマンガといえば、『電影少女(ビデオガール)』が真っ先に挙げられる。
変身ヒーロー活劇『ウイングマン』でヒットした桂正和が、生々しい感情描写と高い画力による艶かしいほどの肉体表現で再び読者の心をつかみ、1980年代末から90年代の「週刊少年ジャンプ」における恋愛物の金字塔となった作品だ。
モテない少年・弄内洋太は、同級生の美少女・早川もえみに片想い中。
イケメンな親友・貴志の協力を得て3人で遊びにでかけたが、もえみの好きな相手が貴志だと相談されてショックをうける。
しかも、その矢先に貴志が悪気なしに洋太ともえみの仲を近づけようと策を講じて、結果、もえみは傷ついてしまう。
「オレに勇気があれば…もえみちゃんがかわいそうだ…」
と、洋太が彼女の気持ちを思いやって涙をこぼしたところで、奇妙な体験をする。
とつぜん目の前に一軒のレンタルビデオ店が出現したのだ。
店にはいると、そこはピュア<純粋>な心の人間にしか見つけられない場所だと不思議なことを言われる。
洋太は、ふと気になった、優しく清楚な巨乳女子がパッケージ写真で微笑むアダルト系イメージビデオを借りて自宅のデッキで再生。
するとビックリ、テレビ画面から女の子がにゅっと三次元へ飛び出してきたではないか!
なんとあの店で借りたビデオは、収録されている女の子が実体化して、ビデオのコンセプトどおりに慰めたり励ましたりしてくれる超自然のビデオだったのだ。
しかし、ここで問題発生。
ビデオデッキが故障していたため不具合が起きて、実体化した“ビデオガール”天野あいは、設定と正反対にガサツ・乱暴・不器用・貧乳なボーイッシュ女子になっていた。
そして、本来ビデオガールにはないはずの愛情を備えて洋太に接してくる、イレギュラーだらけの「あい」との同居生活が始まる。
表面的な優しさで自他の傷を深めてしまう洋太が周囲とおりなす複雑な人間関係に、どこまでも洋太にいちずなあいを加えた恋模様がやがて、神の視点から人間の愛を問う壮大な構図にまでいきつく流れは必見だ。
虚構から現実へ出てきたヒロインとの恋という話型は、たとえば小泉八雲『衝立の乙女』のように大昔からある。
それを『電影少女』はビデオテープという媒体で仕立てたことが新鮮だったわけだが、いま本作を読み返す場合は、そのVHSビデオもまたひとつの古典的要素に感じられる。
ホームビデオ記念日のきょう、「ビデオ」のかたちが異なる時代に思いをはせながら『電影少女』を読んでみると、より味わいが深まることだろう。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7