『男水!』第1巻
木内たつや 白泉社 ¥429+税
日本中に、老若男女の「ガンバレ!」の声援がこだました日がある。
それは、1936年8月11日。もっとも大きかったであろう声は、NHKの河西三省アナウンサーがラジオ実況で連呼した「ガンバレ」。声援が送られていたのは、ベルリン五輪・女子200メートル平泳ぎ決勝に出場していた前畑秀子選手である。
前畑選手は日本人女性初となる金メダルを獲得し、8月11日は「ガンバレの日」として制定されることになった。
それから72年後の2008年8月11日には、やはり水泳の北島康介選手が、北京五輪・男子100メートル平泳ぎにおいて、世界新記録で優勝を果たし、その際の「何も言えねえ」というコメントは、この年の流行語にも選ばれている。
そんな水泳にちなんだ日に読みたい1作が、木内たつや『男水(ダンスイ)!』。部員が存続条件ギリギリの5名という、高校男子水泳部の青春ドラマだ。
優しいお兄ちゃんタイプだけれど、天然で無自覚な「毒」もある、榊秀平。肉体自慢で一見クールながら、水泳に対しては人一倍熱いものを持つ篠塚大樹。おネエキャラで、筋トレで部員をしごきまくる小金井晴美。
そんな2年生3人に対して、新加入の1年生は、運動音痴でも一生懸命な滝結太と、自信過剰なのにカナヅチな原田ダニエルの2人。
イケメン男子キャラたちのコメディとしても楽しめるが、水泳の理論、泳ぎに対する思い、各大会の概要も描かれる、正統派の水泳マンガとしての魅力も十分。スタート台に立つ選手たちが考えていること、ただ力任せで泳げばいいだけじゃないレースの戦術など、メンタル面でもフィジカル面でも、水泳というスポーツをより深く、より身近に知ることができる。
それこそ、登場人物たちに「ガンバレ!」と声援を送りたくなる本作。
この夏、海にもプールにも行けてないという人も、ぜひこの作品で北島選手さながらのスイマー気分を体感してみては?
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Summer」が発売中。DVD&Blu-ray『一週間フレンズ。』ブックレットも手掛けています。