日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『破戒 ~ユリ・ゲラーさん、あなたの顔はいいかげん忘れてしまいました~』
『破戒 ~ユリ・ゲラーさん、あなたの顔はいいかげん忘れてしまいました~』
松尾スズキ(作) 山本直樹(画) イースト・プレス ¥1,100+税
(2016年11月15日発売)
原作は、劇団「大人計画」主宰であり、映画監督であり、さらに今や芥川賞候補作『クワイエットルームにようこそ』、『老人賭博』[]などで知られる小説家でもある松尾スズキ。
もともとは映画の脚本のつもりで書かれたシナリオを「マンガにしたらおもしろいのでは」と思い立ち、松尾のラブコールでタッグが成立。山本直樹が『レッド』を連載する前に発表された異色作が、新装・新編集版で登場だ。
主人公のカズシは、父親から引き継いだ印刷会社の若社長。経営はかなり危ういが、本人は心ここにあらずの様相。
しかしある日、若い工員のノボルが指を機械で切断してしまってからというもの、カズシの身辺はにわかに騒がしくなり始める。
ノボルの兄と名乗る男の恐喝めいた行動、唯一の趣味である寄席で出会った謎の女・ミツコの存在……。
時に無邪気に、奔放に、感情のおもむくままに振る舞うミツコに、無表情だったノボルの心の底で何かがうごめき出す。
思い出さないように封じこめていた彼の過去が提示されていくとともに、じわじわ明らかになる登場人物たちの思惑とまざりあって、激動のクライマックスへ。
これは21世紀の『童夢』(大友克洋)かも!?
コミカルな衝撃シーン、エロに活劇にと見せ場がいっぱい。
脇役の1人ひとりのヘンさも味わい深く、すぐに冒頭から読み返したくなる純愛×バイオレンスの傑作だ。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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