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『いちげき』 第1巻 永井義男(作) 松本次郎(画) 【日刊マンガガイド】

2017/01/01


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『いちげき』


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『いちげき』第1巻
永井義男(作) 松本次郎(画) リイド社 ¥700+税
(2016年11月30日発売)


本作は、永井義男の小説『幕末一撃必殺隊』(2002年、徳間書店)を原作とした時代劇マンガである。

舞台は、幕末の江戸。
尊王攘夷の志士を名乗る不逞浪士たちが市内の家々へ押しかけ、金品を奪い、火を放ち、人を殺す事件があいついでいた。
裏に潜むのは、薩摩藩・西郷隆盛の遠大な謀略だ。幕府と討幕勢力が全面戦争を行うきっかけをつくるため、藩士に徒党を組ませて情勢不安をあおろうとしたのである。

ある夜。
「御用盗」と称するテロ行為をひとしきり行った薩摩藩士およそ30~40名が、大笑いしながら路地を練り歩いていた。
そこへ突然、刀をふりかぶって鬼気せまる形相で襲いかかってくる者が現れ、集団は騒然とする。

襲撃者は武士ではない。
それは、ほんの10日前まで、人を斬ることはおろか武士と目を合わせることすらできなかった、少人数の農民であった……。
そんなインパクト抜群な幕開けのあと、すこし時をさかのぼって、徐々に事態が明らかにされていく。

発端は、勝海舟の思いつきだった。
一刻もはやくテロリストどもを始末したいが、下手人が薩摩の関係者だという証拠はまだあがっていない。
公式の討伐隊を出して召し取った場合、世間にはお上の横暴と思われてしまうだろう。

だから、さしむけるのは隠密部隊である。
それも、捨て駒にできる人材がいい。
というわけで、筋骨たくましい農民を集めて武器を与えた決死部隊、「一撃必殺隊」が結成されたという次第だ。

下層身分の男たちには、マクロな政治はわからない。
大金をやろう、うまく働けば武士の身分にもしてやろう……そんな目先のおいしいエサに釣られた者たちが、体よく危険な任務へ送りだされるのだ。

短期集中の人斬りブートキャンプの特訓で、教えてもらったのは攻撃のしかただけ。
防御法、命の守り方はメニューから省略された。
その意味に気づかず、俺たちはやれるやれると農民兵士たちが意気ごむ図から漂う無情感と、ハラハラ感。
作画を手がけた漫画家・松本次郎の、ざくざくと粗めに率直な描線で表現される歴史世界のなかで、読者はドライでキレのあるスリルを体験することになる。

『女子攻兵』『地獄のアリス』といった、SF仕立てと銃火器アクション、そして少女の表象を活かした作品で人気を得た松本氏が時代劇マンガ雑誌「コミック乱」で連載を持つ、ということでファンに注目された本作。
第1巻で描かれるのは最初の斬りこみから乱戦にもつれこむ矢先までだが、著者の新境地は見事に成功をおさめたと現時点でいいきってしまってかまわないように思われる。



<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7

単行本情報

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