日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『私の好きな週末』
『私の好きな週末』
三好銀 KADOKAWA ¥880+税
(2016年11月25日発売)
2016年8月31日に急逝した三好銀の遺作集。
死の直前まで描き続けられていた最新シリーズを中心に編まれた短編集である。
白黒のコントラストがきいたポップな絵柄。
気負わずに読めて、しかし私たちのなんてことのない生活に、少し風変わりでロマンティックな視座を与えてくれるストーリー運び。
決して派手ではないが、三好が唯一無二の著者であることを感じさせる作品群だ。
別れた元恋人の入院中、彼の部屋に週1回やってくる“勝手知ったるヨソ猫”にえさをやりに行く女性の物語である「猫とトースター」。
一軒家でひとり暮らしを始めた女子大生が、前の住人が残していった“男の横顔のシルエット”の板きれを窓辺に飾ってカモフラージュ(?)する「シルエットの時間」。
登場人物たちが“真顔”で、小さないたずらを楽しみ、それはまた思わぬかたちでだれかに伝播していく……。ちょっとした事件も見る角度を変えれば滑稽なものだったり、ささやかな出来事の裏にもいろんな事情が隠されていたり。
三好が切りとってみせる情景にはいつもほのかなおかしみがただよい、人間として生を受けたことの一番の喜びは、こうしたユーモアを感じとれることかもしれないと思ってしまう。
やまだないと(漫画家)、森泉岳土(漫画家)、角田光代(小説家)、横浜聡子(映画監督)ら生前に親交のあったクリエイターの追悼寄稿も収録。
ご子息によるあとがきも、作品そのもののような三好銀の人となりを伝える名文だ。
早すぎる死が惜しまれるが、彼がのこした作品たちが読み継がれていくことを願ってやまない。
のんびり、飄々、淡々として、時々スパイシーでユーモラス。
三好銀が到達した作品世界は、人が無理なく生きていけることの価値を語りかけているように思う。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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