日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『或る日、木曜会で。』
『或る日、木曜会で。』 第2巻
寺島らて マッグガーデン ¥571+税
(2016年12月14日発売)
文豪、夏目漱石は東京・牛込にある自宅で毎週木曜日に「木曜会」という集まりを主催していた。
芥川龍之介、内田百間、寺田寅彦、和辻哲郎といったビッグネームのほか、何人もの文士がこの木曜会に顔を出していた。日本近代史における梁山泊である。
本作は、漱石を「先生」と仰ぐ文士たちの、貧しくはあるが個性的で、志は高いが、どこかのんびりとした日々を描く。
上にあげたような国語の教科書でも見かける名前のほかにも、口が悪くて厄介者扱いされる森田草平など、今ではマイナーな面々も登場する。
現代の感覚からすると、明治期の文士たちの生き方はあまりにスローペースに見えるだろう。もらいものの甘納豆を「先生」に届けようと歩いていたら、つまみ食いをしてほとんど食べてしまった、みたいな些細なエピソードには近代日本文学の草創期という大仰な気配はない。
当時、モデルにされた作家たちがはたしてこんなにのんびりと生きていたのかどうかはわからない。
彼らは、世界的な近代化の大波のなかで、海外に強い憧れを、自分の才能に焼けつくような希望を抱いていたに違いない。
彼らの心中の葛藤や焦燥は、何もかもがあくせくと追いたてられる時代からふりかえれば、案外こんなぬるま湯のようなものだったかもしれない。あるいはフィクションならではのデフォルメによって、その痛ましい部分が取り去られて、現代風の「日常系」コンテンツとして整理されているのかもしれない。
どちらにしても興味深い試みだ。
<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
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