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『西遊筋』 第3巻 OTOSAMA 【日刊マンガガイド】

2017/01/14


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『西遊筋』


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『西遊筋』 第3巻
OTOSAMA 講談社 ¥570+税
(2016年12月22日発売)


マレーシア出身の著者が中国の古典『西遊記』を題材にしたマンガを日本語版でWEB連載中という、さりげに国際的な作品『西遊筋』の最新第3巻が発売中である。

『西遊記』といえば、唐の僧侶・三蔵法師が孫悟空、猪八戒、沙悟浄の三妖怪を弟子につけ、天竺にいるお釈迦さまからありがたいお経をもらうため旅する様子を描いた一大伝奇物語。世界的に有名ですね。

しかし、もしも悟空たちが粗暴さはそのままに見た目だけカワイイ女の子キャラだったら?
そして、もしも三蔵さまが『超兄貴』ばりの超ムキムキ筋肉で妖怪も神仏も圧倒できる屈強な肉体の持ち主だったら?

というIF世界を描いたのが本作だ。

徳の高い僧侶の肉を食べて寿命をのばそうとたくらむ妖怪たちに、何度も襲われる三蔵さま。
ところが妖怪たちは、三蔵のすさまじいマッスルパワーによって軒並みふっとばされ、勢いにまかせて数々の悪行や陰謀がただされていく。人肉を食おうとしたら筋肉をくらうって寸法さ!
「この三蔵法師、守る必要あんの?」というツッコミをまわりのキャラと読者が共有するのが楽しいパロディである。

この「性別変更キャラがいる」「三蔵さまが超マッチョ」という2点はぱっと見ですぐわかるインパクトなのだが、逆にいうと、それ以外のほぼすべて……エピソード・シチュエーション・固有名詞などは、ひじょうに原典へ忠実でもある。

さらに、沙悟浄だけは「正しい世界」を認識しており、この作品世界が別物だとわかっている(なのに電波扱いされちゃう)というメタな状況を反復するあたりも、パロディの由来がきちんと存在するのだ、と適切に距離をとるアプローチとして評価できる。

最新の第3巻では、道教の士が優遇されて仏教僧が虐待されている国を支配する動物妖怪3人組と三蔵さまが法力勝負をくりひろげるが、これも原典にあるストーリー。
例によって三蔵がマッスル勝ちするオチ以外は、こと細かに『西遊記』から描写を拾っている。
なんだかすごい飲尿シチュが飛び出してくるのも原典どおりだからね! しかたないね!

思いきったパロディの裏ごしに、原典を深く尊重する姿勢。
これこそが、本作の真の特徴といえるだろう。

日本では往年の実写ドラマや『ドラゴンボール』など二次的なイメージが真っ先にくるため、意外とここまで一次的な『西遊記』要素を煮出した作品にふれる機会が少ないかもしれない。
「本当の『西遊記』ではどうなってたっけ」と興味を惹かれて原典を読み直す、または初めて読む者が生じることは想像にかたくない。
原典にも益のあるつくりで、過激なギャグマンガなのだけれど、誠実で徳のある作品でもある。



<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7

単行本情報

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