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『中年スーパーマン左江内氏』 藤子・F・不二雄 【日刊マンガガイド】

2017/02/04


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『中年スーパーマン左江内氏』


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『中年スーパーマン左江内氏』
藤子・F・不二雄 小学館 ¥648+税
(2016年12月28日発売)


現在、『スーパーサラリーマン左江内氏』として放送中のドラマのスタートにあわせ、改めて単行本化された本作。
藤子・F・不二雄が『ドラえもん』『キテレツ大百科』に代表される少年マンガだけでなく、シニカルな味わいで、時にはぎょっとするほどブラックなSF短編も描いていることを知らない人は、今や少数派だとは思うが、本作はタイトルに「中年」と入っているだけあって、とりわけ「おっさんになって初めて実感できる」エピソードが多い作品である。

あくまで、全体のトーンはほのぼのしつつも、根底にある「あきらめ」や「無力感」がかいま見えることもしばしば。
それが序盤では「スーパーマンになっても、小心者ゆえに大したことはできない」といったかたちでおもしろおかしく描かれているのだが、小さなストレスの積み重なりから、左江内氏が過剰な暴力をふるってしまう「割りこみ許すまじ」や、正論をふりかざすゆえにトラブルが絶えない中年男性の手にスーパーマンのスーツが渡ってしまう「あなたこそ正義のみかた」といった後半のエピソードは、とりわけほろ苦ムード満点。
そして最終回では、ある事件を契機に怒りが爆発し、無力感にさいなまれてしまうのである。

ドラマのほうはかなりライトなコメディに仕立てられ、各エピソードもほぼドラマオリジナルのストーリーとなっているため、よりアイロニカルな原作との違いを楽しむのもいいだろう。
もちろん、原作と違うからダメということはいっさいなく、ドラマも『アオイホノオ』で脚本・監督を担当した福田雄一が手がけるだけあって、現時点で充分に楽しい仕上がり。
最終的には左江内氏の持つ悲哀がどの方向に振られるのか予想できないだけに、ドラマの結末も興味深く見守りたい。



<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。

単行本情報

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