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【インタビュー】大島薫『男の娘どうし恋愛中』 “男の娘”にして元・カリスマAV女優は、“男の娘”同士で同棲中!?

2017/12/23


人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。

今回お話をうかがったのは、大島薫先生!

衝撃的な美貌でカリスマ“男の娘”AV女優として一世を風靡し、現在は作家・タレントとして大活躍する大島薫さん。男性や女性、ゲイやトランスジェンダーというカテゴリーにとらわれず、自分らしくあることを生き方や文章を通して発信し続けています。
そんな大島さんが12月11日、初のコミックエッセイ『男の娘どうし恋愛中。』を刊行! 作画は『ぼくらのへんたい』などの作品で、ジェンダーと向きあう少年少女の心を繊細に描き続けてきたふみふみこさん!!

『男の娘どうし恋愛中。』
大島薫(著) ふみふみこ(画) 宝島社 ¥1000+税
(2017年12月11日発売)

『男の娘どうし恋愛中。』では、大島さんが女装を始めたきっかけや性の目覚め、そして、大島さんと同じ 男の娘である恋人・ミシェルさんとの恋愛模様が赤裸々に描かれています。制作裏話や作品に込めた思いを、じっくりと語っていただきました!

著者:大島薫

1989年、ブラジル生まれ。女性ホルモン未使用、性別適合手術なしの「ノンホル・ノンオペ」男性でありながら、業界初のAV女優デビューを果たす。2015年の引退後は、タレント・作家として活躍。著書に自伝『ボクらしく。』(マイウェイ出版)など。『男の娘どうし恋愛中。』(宝島社)は、著者初のコミックエッセイとなる。

好きなものを着て、好きな人に「好き」っていいたいだけ

──今回のコミックエッセイを読んで、大島さんの女装のきっかけが、「理想の男の娘がいないなら、自分がなろう!」というものだったことを知りました。

大島 本に書いてあるように、ボクは15歳ぐらいの時にいわゆる二次元の「男の娘」キャラと出会いました。そして、今度は三次元に理想の「男の娘」がいないかな、と探したんですけど、当時は全然いなかった。だから、自分がなろうと思って、女装をするようになったんです。

にこやかにインタビューに応じる大島さん。こんなにかわいいけれど、性別的には男性! しかもホルモン注射も手術もなし……! 女装ってレベルじゃない!!

──二次元にも三次元にもいない、理想の男の娘になるぜ、みたいな?

大島 いや、二次元はどんな男の娘キャラでも最高峰ですよ(笑)。絵ですからね。ただ、自分の空想に追いつこうとするのって、別にボクの女装に関する考えだけじゃなくて、たとえば『ドラえもん』に出てきた道具を現代の技術でつくりたいな、みたいなことといっしょだと思うんです。

──それが、大島さんの場合は、たまたま女の子の格好をすることだったわけですね。

大島 そうです。ただ、女装していても、自分のセクシャリティにいろいろ迷うところがあって……。ゲイなのか、バイなのか、ノンケなのか、あるいはトランスジェンダーみたいに女性になりたい人なのか、わからなくなったんですけど、グルグル回っているうちに、結局のところは、自分が好きなものを着て、好きな人に「好き」っていいたいだけなんだな、ということに辿りつきました。
その生き方を体現するためにも、知名度を上げたいな、と思うようになったんです。

初オ◯ニーに単四電池が選ばれた理由

──それからゲイビデオから一般のAV業界に転身して、どんどん名を上げていく快進撃は本の前半の盛り上がりのひとつでもありますね。もうひとつの盛り上がりは、大島少年の「性の目覚め」かな……と個人的に思ったのですが(笑)。特に、単四電池でお尻を使って自慰を始めるという展開には衝撃を受けました。

大島 このエピソード、ふみさんからも編集さんからも「この話は入れたほうがいい」とアドバイスされたんです。ボクは「マジですか、これ、引かれないですか」と思ったんですけど……。

──なぜ単四電池を選んだのかは非常に気になります。

大島 ボクが性の目覚めを迎えたころは、男のオナニーってどうやるのか、全然情報が入ってこなくて、わからなかったんですよね。一方、女性のオナニーはエロ本で見る機会があったので、「穴に細長いものを抜き差しすればいいのか!」と勘違いしてしまって。でも、指を入れると汚れるかもしれないから、使い終わったものにしよう……ということで、単四電池が採用されました。使用済の単四電池を、別の意味でももう一度再利用した感じ。

少年のほとばしるリビドーは、大いなる勘違いを生みだした……! みなさんもご注意ください……?

──エコ感覚で(笑)。電池を入れると、残っている電気でピリピリしたりすることはないんですか?

大島 なかったですね。入れて抜けなかったりすると、まずいことになっていたと思うんですけど(笑)。よく電池を飲みこんで胃が溶けちゃう話とか聞くから。

──いないと思いますが、これ読んでいる人も、決してマネはしないでください。

ミシェルの闇とふみふみこさんの作家性

──大島さんの生い立ちや日常を中心にポップな四コママンガが続いていた本作。なのに、恋人のミシェルさんとの関係が深まった時に、突然それまでとはまったく違う展開になったので、本当にビックリしました。

大島 基本的には四コママンガで進めようという話だったのですが、とても強い思い入れのあるシーンがあって、その場面は四コマではなくストーリーマンガのかたちで描いてください、と作画を引き受けてくれた漫画家のふみふみこさんに頼んだんです。それ以外は四コマでもいいかな、とボクは思ったんだけど、ふみさんが、「ラストもストーリーマンガにしませんか?」といってくれた。結果として、その箇所も、ボクがこの作品で特に好きな場面になっています。

ストーリーマンガへと切り替わるラストシーン。ミシェルさんと大島さん、2人のドラマはどこに行きつくのか?

──本当に見事に、それまでの四コママンガからストーリーマンガに転換しています。

大島 ストーリーマンガへ転じる時、四コマの流れを汲んでコマを割っている。ふみさんのコマ割りは本当に独特で、間のとり方も文学的な情緒があります。ボクもミシェルも『ぼくらのへんたい』[注1] 『女装男子とメンヘラおじさん』[注2]などを読んでいて、もともとふみさんのファンだったので、突飛な構成でもお願いすればうまくやってくれるかなぁという思いはありました。

──たしかに大島さんの明るいエピソードと、ミシェルさんの影のあるエピソードがひとつの作品のなかで見事に調和していました!

大島 作画がふみさんでなければ、ミシェルの話はここまで入れなかったかもしれません。ふみさんって、毎回どのマンガのあとがきでも、「次は明るい話が描きたいです」と書いているんですが、だいたい次も暗い話なんですよ(笑)。ボクはミシェルの生い立ちとか、主義・思想を聞けば聞くほど、なかなか生きづらいだろうなというところに気がつくようになっていたので、ミシェルの抱えている闇のようなものとふみさんの作家性は、かなりハマると思いました。
実際、ふみさんにミシェルが女装することになるきっかけを聞いてもらったら、「あれ、それ、私がマンガで描いた人でしたっけ」みたいな反応が返ってきました。

──ミシェルさんと大島さんの出会いについて教えていただけますか?

マンガにも登場する、恋人・ミシェルさんとの出会い。偶然の出会いだったようですが……?

大島 男の娘AVを見てミシェルの存在については知っていたのですが、ボクがAVを辞めた直後にかつてのボクの所属事務所に入った子だったので、見事にすれ違っていたんです。だけど、コミックエッセイにも書きましたが、ボクが作家業を始めたばかりのころに転がりこんでいたエロ本出版社で、撮影で訪れたミシェルと偶然出会いました。
その日、ミシェルはAVの最後の撮影のつもりで臨んでいたそうなので、この機会を逃していたら出会えなかったかもしれません。作中には出会えそうで出会えないボクとミシェルを描いたコマもあるので、ぜひ探してみてください。

“ちょっと変わった人の日常”で終わらない、“人間”の物語

──大島さんから見て、今回のコミックエッセイ『男の娘どうし恋愛中。』はどんな本になりましたか?

大島 ボクの生い立ちや日常についてギャグっぽい四コマが続く前半は、ちょっと変わったカテゴリーの人の日常を覗き見してみようというノリ。今回なら、「男の娘の日常ってどんな感じなの?」ですね。
けれど、だんだんボクと恋人であるミシェルの話に移っていくにつれて、「人間」の話になっていく。そこが、すごくよかったと思っています。決して宇宙人同士の恋愛じゃない。あくまで普通に生きてきた人間が、たまたま生まれ持った性別とは別の容姿を選択するようになっただけ。本来持っている人間的なものは変わらないということが伝わればいいなと思っています。

──男の娘どうしの恋愛だからって、本質的には特別なことはない?

大島 男どうし・女どうしの恋愛で起こることって、それを「ゲイだから」「ビアンだから」ってくくりがちなんですが、それを取っ払ってしまえば男女の恋愛で起きることといっしょ。2人の間で起こるいざこざだって、突きつめれば嫉妬や浮気の話がほとんどです。男女間の恋愛でもいっしょですよね。

──たしかに、この本を読み進めるほど、ここで起きていることはだれの身にも起きうることだということが伝わってきます。

大島 そうなんです。ミシェルが母親に女装のことをカミングアウトする場面があるのですが、これも結局、「セクシャルマイノリティにありがちなカミングアウトのエピソード」と読み取ることもできる。でも、ミシェルはミシェルでお母さんに心配かけたくないから秘密にしてきたわけだし、ミシェルのお母さんはお母さんで母親として子どもたちのことが知りたいから全部話してほしいと願う。これって、別にLGBTに限らず、どの人の家族間でもある悩みですよね。だから「こういう問題は男の娘だから起こるんだよね」以外の目線で読んでらえると、すごくうれしいです。

カミングアウト後のミシェルさんの姿は、悩みを家族にいうことのできなかった「ひとりの子ども」。それはごくありふれた風景に違いない。

──大島さんとミシェルさんの関係もLGBTというくくりで分類しようと考えてしまうと“性自認は男性だけど、性嗜好はパンセクシャル[注3] で、いまの恋人は男の娘で、自分も女装していて……”とややこしく思えてしまいますが、そこにあるのはただ恋愛感情なんだと思うと、とたんにシンプルになりますね。

大島 ラストシーンはくわしくは本書で読んでほしいですが、ボクたちは今、お互いに欠けていたものを補いあっています。ミシェルはミシェルで過去を取り戻そうとしていて、ボクはボクで子どもの時から巡り会いたかった人に巡り会って、あたえたい言葉、あたえたい愛情をあたえられている。そのことに深い喜びを感じています。ボクが出会えたのが、この娘でよかったとすごく感じています

──「あとがき」ですごい事実が明かされているので、いま、お2人がそういった穏やかな気持ちで過ごされていることに、ほっとします。

大島 それは、この本を製作している最中に、ものすごい展開があったんですよ!(笑) でも、最後の最後で真実が書けたのでよかったです。

──衝撃の展開についても、ぜひ本書で読んでいただきたいですね……。

大島 ボクとミシェルは、あと数カ月で交際1年なんですけど、いいかたちに2人が納まっている節目にこの本がちょうどできたのはうれしいですね。

──ありがとうございました。







  • 注1 『ぼくらのへんたい』 ふみふみこ先生の長編マンガ作品。それぞれの事情で女装をしている10代の少年たちの交流を描く。2012~2016年にかけて『COMICリュウ』(徳間書店)で連載。
  • 注2 『女装男子とメンヘラおじさん』 2017年に刊行されたふみふみこ先生のマンガ。SNS上での女装を趣味とする優等生の少年とさえない中年男性の交流を描いたBL作品。
  • 注3 パンセクシャル 男性・女性という性の区分にこだわらず、あらゆる人々に恋愛感情・性的願望を抱く性質のこと。全性愛ともいわれる。

取材・構成:六原ちず


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