日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『タンポポに降る雨』
『タンポポに降る雨』
今市子 学研プラス ¥833+税
(2017年1月13日発売)
『百鬼夜行抄』の今市子が、2006年から2014年にかけて描いたBL作品5篇をまとめたもの。
激しい性描写も愛情表現もなく、タイトルのとおり「タンポポ(の綿毛)」や「雨」のような、取りとめなくはかない空気が描かれている。どこかノンビリとしていて、不思議と安心する作品たち。
じっくりと読み解いて、あたたかさに触れてみてほしい。
表題作の主人公で保険調査員の森本が出会うのは、家事代行サービスの美青年・マサアキ。
森本はマサアキに、かつて愛した兄嫁の息子(甥)の面影を見てしまう。
錯綜する記憶と、事故の偽装、家事代行によるなりすましと、入り組んだストーリーのもとで、2人の気持ちが近づいていく。
作中で森本は、マサアキへの未練を疑う同僚から「小説家志望と役者志望は夢の数だけいますから、早く次いかなくちゃ」といわれているが、2篇目「可能性の問題」には小説家が登場する。
その小説家である久能、そして彼の元担当編集者の相原、相原の血のつながっていない兄弟の水野が「可能性の問題」の主人公たちだ。
この作品でも、水野と相原の、「再婚した夫婦のそれぞれの連れ子」という因縁、就活の因縁、そして久能の恋人あるいは担当編集者という立場のすれ違いという関係が描かれている。
それだけではない。話の主軸は久能が疑いをかけられている盗作問題だ。
事件の真相に対する水野と相原の態度の違いが絶妙。
5篇目「ある晴れた日に」は、母が失踪して取り残された息子の陸と、その親戚で女子校の教師をしている憲二のエピソード。家庭も職もあるがなかば自暴自棄に生きている憲二と、直情径行型の陸。宿なしになった陸を、家に泊めたり陸を世話してやる憲二だったが、なぜか陸を遠ざけようとする。結局のところ寮を追い出された陸は、再び憲二と暮らし始めて……という話。
雨や自暴自棄がモチーフになっているが、2人の根の素直さが読んでいて気持ちいい。
紹介できなかった3篇目の「角封筒より重い」や4篇目「千の針が唄う」も、場面と人間関係がクルクルと展開していくスピード感が楽しく、それでいて繊細に絡みあう関係がせつなく胸に迫る。
<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
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