日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『書店員 波山個間子』
『書店員 波山個間子』 第1巻
黒谷知也 KADOKAWA ¥650+税
(2017年2月15日発売)
IKKI新人賞[イキマン]単行本描き下ろし部門を受賞した新鋭・黒谷知也の『幸福はアイスクリームみたいに溶けやすい』に続く、最新作。
インドア派で内気な書店員の波山個間子(はやま・こまこ)さんが、ブックアドバイザーとしてお客さまの話から脳内本棚を検索。本の解説をしながら感きわまったりする姿は、本好きなら共感せずにいられない!?
様々な人の読書の水先案内人を務めることで、彼女自身もこれまで読んだ本が今の自分をつくってくれたし、人生の見方も教えてくれた――と気づき、勇気を持って新たな扉を開こうとする姿は、アン・ウォームズリー著『プリズン・ブック・クラブ』を彷彿させる感じもあり。
読書とは往々にして、リア充な方々からは地味で内向きで暗い趣味と思われがちだが、じつは「未知の世界へと繋がる扉を開く、エキサイティングな知的探究なのだ!」と膝を打ちたくなる。
作中で、向田邦子『眠る盃』、沢木耕太郎『深夜特急』、『人の砂漠』、野田知佑『ゆらゆらとユーコン』、H・ヘッセ『少年の日の思い出』、『車輪の下』など、実在する本が登場するのも楽しい。
説明的なモノローグが多すぎて、ドラマ部分が弱いわりに絵も硬く、マンガとしてはちょっと弱いな~という感もあるが、この靜謐(せいひつ)で濃密な世界観は、それを補ってあまりある魅力あり。
第1巻では内省的思索に終始していた波山さんが、どう外界へアクセスしていくのかも含めて、次巻を楽しみに待ちたい。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69