365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
3月8日は神のヨハネスの日。本日読むべきマンガは……。
『失踪日記2 アル中病棟』
吾妻ひでお イースト・プレス ¥1,300+税
本日3月8日は聖ヨハネ・ア・デオなる聖人の祝日とされている。
1495年のこの日にポルトガルで生まれ、1550年の同日に溺れた者を救って没しており、「神のヨハネス」とも呼ばれる。
スペインに渡ったヨハネは戦争で武功を立てつつ、当時目新しかった活版印刷の技術により宗教に関連した書物を普及させるなどの活躍をしていたが、司祭の説教を聞いたおりに、感銘を受けて突然自分の罪を告解し始めたことを錯乱ととられ、精神病院に入れられたという。
この経験がきっかけで、スペインにて病人や貧しい者たちへ生涯を捧げる決意をしたそうだ。
ヨハネは1690年に列聖され、病院や病人、看護する者、消防士、特に精神病者、アルコール中毒、また、書籍商の守護聖人とされている。なんと多彩な……!
とりわけアルコール中毒の守護聖人というのは意外で目をひく。
そこで、この病気を描いた作品として真っ先に思いつく『失踪日記2 アル中病棟』を紹介したい。
『ななこSOS』、『不条理日記』などで一世を風靡した漫画家・吾妻ひでおが、アルコール依存症により強制入院させられた時の綿密な記録である。
ちなみに、本作で描かれている病院では、アルコール依存症患者の病棟は精神科のなかにあるそうだ。
前作『失踪日記』(こちらにも、入院時のことが綴られている)同様、陰鬱なテーマを客観的で乾いたタッチで描かれている。
病棟では患者たちが長期間の共同生活をするため、小ぜりあいが頻発し、毎晩病室で小便されるなどシモの話も少なくないが、著者のシュールなセンスとブラックなユーモアにより、すんなり読めてしまう。
さらに、彼らのキャラの濃さに不思議と愛着までわいてくるのだ。とはいえ、やはり「アルコール依存にはなりたくないな~」と思わせてくれるのもこのマンガである。
アルコール依存症者のほとんどは働けないため、福祉の世話になる人も多く、世間の目は厳しい。
ただし、みずから望んでなったわけではないのは、ほかの病気と同じだ。完治のない不治の病であり、ひたすら断酒するしか生きのびる道はない。
吾妻ひでおは紆余曲折ありながらも退院し、断酒も続いているそうだ。なにより、作家活動も続けているのはうれしいかぎりである。
神のヨハネスの加護があるのかは知らないが、奥様をはじめとするご家族の「献身的すぎない」支えも功を奏している印象だ。
貴重な体験をし、稀有な才能を持つ著者が、この先、病に呑みこまれないことを改めて祈っておきたい。
<文・和智永妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。