日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『新装版 ホクサイと飯』
『新装版 ホクサイと飯』
鈴木小波 講談社 ¥722+税
(2017年1月20日発売)
読みながら、作り手の想いがひしひしと伝わってくるような本がある。
『新装版 ホクサイと飯』は、まさにそんなマンガなのだ。
姉妹作の『ホクサイと飯さえあれば』がドラマ化されたので、あらためて本作を手に取った人も多いかもしれない。KADOKAWAのマンガ雑誌「サムライエース」休刊にともない、惜しまれながら連載が終了した『ホクサイと飯』と、著者・鈴木小波が自費出版した同人誌『ホクサイと飯 おかわり』が収録された本作。
全288ぺージ、読みごたえぎっしりである。
主人公の漫画家・ブンは、10歳の頃からの相棒・ホクサイ(ぬいぐるみ)とともに暮らす。
締め切り直前に「おいしいものが食べたい」と台所に立つブンをたしなめるホクサイ。はたまた、連載の打ち切りに落ちこむブンの側にさりげなく寄り添うホクサイ。
1コマ、ひとコマ読み進めるうちに、ブンにとってホクサイがどんなにかけがえのない存在であるかがわかる。
ここまでストレートに、しかもいやみなく、登場人物の心が読者に伝わるマンガは珍しいのではないか。
いつだってブンの気持ちは、ダイレクトに紙面に現れている。いわゆる少女マンガ風の華やかさはないけれども、手触り感とあたたみのある絵は、実直にブンの心象風景を描き出す。
セリフのないコマでも、絵が訴えかける力が強い作品なのである。
本作の結びは、せっかくブンの新連載が始まったのに、雑誌が休刊になる、という話だ。
「(休刊のことを)マンガに描く」と決意したブン。ブンのまわりには、相棒のホクサイだけでなく、いっしょにご飯を食べてくれる仲間たちがいる。
読みながら、めげないブンの姿に、著者の姿が重なってしまう。
人生は山あり谷ありなのだ。あらゆる局面を耐え、生き抜く原動力となるのは、とてもシンプルで単純な思いであったりする。
著者の場合には、それが「描きたい」、「読んでほしい」という思いなのかもしれない。
1冊読み終えた頃には、まっすぐな思いに心をうたれる。
鈴木小波のマンガを、もっとたくさん読みたいと思う。
<文・片山幸子>
編集者。福岡県生まれ。マンガは、読むのも、記事を書くのも、とっても楽しいです。