人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、藤本タツキ先生!
『このマンガがすごい!2017』オトコ編第3位ランクイン!
生まれながらにして奇跡を使える人間、祝福者。どんな傷も再生する能力を持つ、死なない少年・アグニは、雪と飢餓と狂気に覆われた土地で、村を焼きつくした炎を操る祝福者・ドマへの復讐を誓う――。
第1話がネットで大反響、『このマンガがすごい!2017』オトコ編第3位にランクインした衝撃作『ファイアパンチ』の誕生秘話が今、明らかに!
そしてなんと、特別にヤバい『ファイアパンチ』初期のネームを大公開しちゃいます! さらには、著者・藤本タツキ先生のマンガのルーツにまで明かされる!?
まずは超衝撃(!?)のネームの一枚をご紹介します!
な、なんと……これが、超話題になった『ファイアパンチ』第1話のネームだというのだ……!!
そしてこれが実際に公開された1話の見開き。ネームと本番の間に何が!?
今回編集部で特別に入手したこちらのネーム。なんということでしょう!
まさかこれがあの、話題になった第1話のネームだと!?
インタビュー後半では、今回編集部で特別に入手した2段階のネームのうち、ほかページも大公開しております! 超要チェックだ!!
さあ、そんな特ダネ満載のインタビューをチェックしていこう!
キーとなるのは……宗教!?
――実際に連載を始めてみて、最初の設定から変わった点はありますか?
藤本 宗教の部分です。
――作中に、宗教出てきますよね。
藤本 (作中に出てくる)それを実在する特定の宗教にしたかったんです。
担当(林士平 Twitter→https://twitter.com/SHIHEILIN) ただ、それはこちらから“待った”をかけました。
――それは、いわゆるポリティカル・コレクトネス的な部分で?
担当 というよりは、実在の宗教にする必然性をあまり感じなかったんですね。どうしてもその宗教である必要があれば、喜んでOKを出したと思います。
藤本 じつは『ファイアパンチ』より前に、連載用に作って没になったネームがあるんですけど、それは宗教色の強い話だったんです。
――藤本先生ご自身が、宗教に対して興味があるんでしょうか?
藤本 それが作品のテーマというわけではないです。ただ、宗教にしろ、映画にしろ、僕が物語りたい部分に一致しているところがあるので、モチーフとして使いたいと思っていました。
日本では宗教ってあまりいいイメージを持たれていないじゃないですか。だから、いきなりそこを前面に出していくと読者も引いちゃうと思うので、読者のみなさんが『ファイアパンチ』の物語に乗ってきてくれたあたり――、4~5巻あたりで出せたらいいな、と。
――ちょっとこれは本筋から外れた質問になるかな? あの、作中でみんなタバコを吸ってるじゃないですか。その理由をお聞きしてもいいですか?
藤本 第1話の冒頭で「凍えた民は炎を求めた」という言葉があるように、この寒い世界ではみんなが火を求めているんです。タバコに火がついて目の前にあるってことは、それだけで安心が生まれるんじゃないかな、と思うんですよ。
――あー、なるほど。それは納得です。
藤本 それに、この『ファイアパンチ』の世界は、正しい教養が身につかない世界というか……。文化的な水準が低いんです。
――内戦のあった国とか、たった一世代で文化がかなり失われてしまいます。
藤本 テクノロジーだけ残っているけど文化水準は低いので、目先の快楽に飛びつく、というのもあります。男性は性的なものを求めるし。
――物語冒頭からいろいろなタブーを描いていますけど、現代の教養や道徳の崩壊したあとの世界ですもんね。ただ、最近はドラマ的にタバコって使いづらくないですか?
担当 海外での出版を考えると面倒ですよね。北米だとR-15かR-18になってしまうかもしれないです。でも、そこは気にしてもしょうがないので(笑)。
新井英樹先生から「カリスマ」を学ぶ
――「ジャンプ」のヒーローマンガって、「カリスマを描く」ことが根本にあると思っています。この『ファイアパンチ』の第一章(3巻まで)を読むと、藤本先生は「カリスマを描く」ということに、ものすごく自覚的だと感じたのですが。
藤本 僕は新井英樹先生が大好きなんです。『キーチ!!』とか『真説 ザ・ワールド・イズ・マイン』なんかを読むと、「カリスマをつくる話」だと思ったんですね。それが周囲から見た時に、宗教に見えたり、怪物に見えたりもするんでしょうけど。
藤本 新井先生のマンガでは、いつもカリスマを演出する人がまわりにいるんですね。
――『キーチ!!』でいえば染谷輝一(主人公)と甲斐慶一郎、『ザ・ワールド・イズ・マイン』でいえばモンちゃん(主人公)とトシの関係ですね。
藤本 僕はその関係性がすごく好きなんです。
――ひょっとして『ファイアパンチ』におけるアグニとトガタの関係は、それに近い部分はある?
藤本 そこは意識しています。アグニが復讐を遂げようとしているのに、端で見ていたトガタが、そのアグニの行動を無理やりどうにかしようと企む。あとは、映画『貞子vs伽椰子』(2016年)の白石晃士監督の『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズの影響もあるんですよ。
――『コワすぎ!』は「投稿者の映像を元に、スタッフが心霊現象を検証・調査する」フェイクドキュメンタリー方式のオリジナルDVDシリーズですよね?
藤本 『コワすぎ!』シリーズには、工藤ディレクターというキャラが出てくるんです。メインの心霊現象そのものより、工藤ディレクターを見ているほうがおもしろいんですよね。
――かなりブッ飛んだキャラです。
藤本 まぁ、最終的に工藤ディレクターは罰を受けちゃうんですけど。
――主人公そのものよりも、トガタを通じてアグニを見るほうが、いろいろ伝わる部分もあると?
藤本 あくまで主人公はアグニですからね。
――先ほどの「カリスマを描く」に続く質問ですが、藤本先生はいわゆる「ジャンプ」的なヒーローって、お好きですか?
藤本 うーん、あんまりそこまでは考えてないです。マンガは、おもしろければ全部好きです。ただ、せっかく「少年ジャンプ+」で連載をやるんなら、「週刊少年ジャンプ」ではできないことをやろう、“アンチ・ジャンプ”的なことをやりたいな、とは考えています。
――ちなみに「少年ジャンプ+」の想定する読者層って、どのくらいでしょうか?
担当 連載がWEBサイトやスマホアプリでの展開なので、小学生より上の、中高生〜30代ぐらいが多い印象です。
――ということは、読者のマンガに対するリテラシーは、ある程度高いものと想定しているわけですか?
担当 そうですね。僕は「少年ジャンプ+」は実験作もトライできる場だと思っています。僕自身、本来は「ジャンプSQ.」のスタッフなんですが、「少年ジャンプ+」にも企画を出せるんですよ。自分の雑誌では、うまくハマらなかったものでも、おもしろいので見てください、ということができる、表現の幅が広い場なんです。
藤本 読んでいる人は『ファイアパンチ』をどういうマンガと思っているかわからないんですけど、タブーとかも全部やっていきたいな、と。先ほどの例に挙がった宗教にしても、いいところも悪いところも、普段マンガにしないようなところもマンガにしていきたいです。