人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、大谷紀子先生!
原作小説、コミカライズ、映画と大ヒットを連発し続けてきた『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』。そのコミカライズを手がけたのは『すくってごらん』や『おとむらいさん』など、話題作を手がけてきた漫画家・大谷紀子先生。
2015年5月に本サイトで連載が始まり、今年の5月に堂々の完結を果たしました。現在、全3巻の単行本が絶賛発売中! 最終第3巻は、先月発売されたばかりで話題になっています。
今回は、マンガの原点に立ち返り描いてきた部分についてや、単行本でしか読めない最終話のあとのエピローグの裏話などのほか、大谷先生の次回作に迫っちゃいます!!
<インタビュー第1弾も要チェック!>
【インタビュー】大谷紀子『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』奇跡の再会!? コミックスのウラ表紙に感動の仕掛けが!
表情で伝える大事さというマンガの原点に立ち返って
――作中で特に気に入っているシーンはありますか?
大谷 秘密を知った高寿が愛美さんと会うことにジレンマを感じ、ひとりで考え抜いて苦しみを乗りこえる場面です。回る洗濯機を見つめながら自分を省みて愛美さんに想いをはせ、答えに至るんですよね。
――愛美さんのことはだれにも相談できないので、ひとりで考えるしかないわけですが。
これが部屋でお酒でも飲みながら物思うのではなく、グルグル回る洗濯機を見てるってすごくいい演出ですね。
大谷 回る洗濯機を見つめちゃう気持ち、わかります。こういうところもリアルなんですよね。
たしかにこんな待ち時間みたいな時に、集中して考えごとにふけったりするものだなと。
――回る洗濯機が何かを暗示しているようにも思えてきます。
大谷 もしこの洗濯機が部屋のなかにあったら、その間テレビでも見ちゃうことになるし。
洗濯機が部屋の外にあるからこそ、このシーンもあるんですよね。じつは愛美さんが初めてアパートに来た時に、アパートの外にある洗濯機に気づくシーンがあるんですよ。やっぱり、すごく緻密に考えて書かれている小説なんだなあと。
――髙寿が葛藤を乗りこえてからラストへの流れは、先に小説を読んでいてもゾクゾクさせられました。
大谷 描いていてつらかったです。特に、別れの瞬間が近づいていって髙寿が泣いてしまう顔は。
女の子は泣き顔をかわいくできるけど、男の子の場合は難しいですね。カッコ悪くならないように情けなくならないように……どうしても耐えられなくなって泣いてしまう。このニュアンスはけっこう考えましたね。男の子はこういう時顔を隠すかなと。
――愛美さんから顔をそむけていますが、そこはカメラがちゃんととらえている構図ですね。
大谷 何かと涙をこぼしていた愛美さんは最終回に近づくにつれて泣かなくなっていき、反対に髙寿くんが泣くようになっていく。小説どおりですが、マンガだとよりわかりやすいと思うので、この対比は注目して見ていただきたいなと思います。
「ぼく明日」を描いて影響を受けたこと、学んだことはたくさんありますが、特に大きいのは、キャラクターの表情をていねいに追うということ。オリジナルの場合、魅せるエピソードを生み出すことに力が行って、ここまでていねいに表情を追っていなかったかもしれないと思いました。
――笑顔にしても、幸せだったりせつない笑みだったり。2人の表情の微妙な表現があり、それをいろんなアングルで見せる「カメラ」がドキュメンタリーのように2人をとらえていると感じます。
大谷 今後、オリジナルの作品でももっとキャラたちの表情を突きつめていきたいです。
思い返してみると、これまでに読んできたマンガで強く印象に残っているのって、表情なんですよね。
――それこそマンガの原点ですね。「マンガの描き方」みたいな本には、昔から脈々と「表情で語れ」との教えが書いてあります。
大谷 忘れかけてた基本に立ち返った気分です。愛美さんの泣き顔にもいろいろバリエーションがあって。耐えながら泣く表情が一番好きなんですけど。目を開けたまま涙を流してると、我慢してる感じが出るんです。描きながら「人の顔って眉毛で変わるなあ」と気づいたり、表情の引き出しを勉強できました。
――完結してから読み返しましたか?
大谷 まだです。連載中はよく読み返してましたけど。客観的に見るには、少し時間を置くことが必要なんですよね。この作品では、ペンタッチも模索していたので途中でちょっと線が変わっているかも? 並行して描いていた『おとむらいさん』より細い線に挑戦しました。さらに線に温かさがほしいなと途中で思ったり。愛美も髙寿も成長しているし、私も成長しなきゃと気持ち的にシンクロした部分もあったかもしれません。
単行本に収録された特別編・エピローグ
――単行本でしか読めない最終話の後のエピローグは、せつない気持ちをやさしく包みこんでくれるような読後感でした! しかも5歳の愛美さん視点で語られるとは。
大谷 原作ではエピローグはちょっとしかないんですけど……。
担当 七月先生には、読者に想像の余地を残したいという意図があったそうです。コミカライズのエピローグでは原作にない愛美さん視点を描いてほしかったので七月先生にご提案したところ、許可をいただくことができて。
大谷 あまり愛美さん視点のパートを描きすぎると、愛美さんに全部持っていかれちゃいそうなので、ほどほどに。髙寿くんのこれまでのがんばりの印象が薄れちゃうのはかわいそうですから。
――このエピローグで、また冒頭から読み返したくなります。
大谷 私としては大人の髙寿くんを描きたくてウズウズしてたので、そこも満足です!
――35歳の髙寿って、本編ではホントにちらっとしか出てないですもんね。
大谷 でも、20歳と35歳の髙寿を描き分けるのはけっこう難しくて。35歳じゃ、そんなに老けてるはずもないし。
――少年ぽさが完全に消えて、いい感じにカッコいい大人の男に成長したなあと思いました。
大谷 いろいろ乗りこえて、大人の余裕があるイメージです。
担当 読者のみなさんにぜひ見てもらいたいのは、3巻のおまけマンガに出てくる15歳の愛美ちゃんです。ボブでめっちゃかわいいんですよ!
大谷 こんなにかわいくて……25歳の高寿くんガマンできるのかな(笑)。
――20歳の愛美とはまた別のかわいさがありますよね。
大谷 Twitterで「25歳の髙寿くんと15歳の愛美さんのエピソードを描いてください」といってきた方がいたんですけど。やっぱりこれ見たい人、いますよねぇ。
――見たい! 七月先生、書いてくれないですかね? 勝手に想像するだけでもめちゃくちゃ楽しいですが。
大谷 2年弱、愛美と高寿にずっとつきあってきたから、2人のことは子どものようにかわいいです。
どのコマも愛情をこめて描いたなあという感慨があります。画面のなかにいつもちっちゃい自分がいて、愛美と髙寿を至近距離から見つめてるような気持ちでしたね。
――「ぼく明日」、そして並行して連載されていた『おとむらいさん』も完結したばかりですが、次回作のご予定は?
大谷 今、連載2本を同時に立ち上げ中なんです。宝島社でオリジナル作品、もう1作は「BE・LOVE」でコミカライズ作品です。
――大谷先生は「ぼく明日」以前にもコミカライズ作品を手がけていますよね。
大谷 はい。まだくわしくはいえないのですが、これが4作目になります。「ぼく明日」とはまるで違うタイプですね……設定も登場人物たちも。絶対に自分では作れないキャラクターを描くことはすごく勉強になるので、めちゃくちゃありがたいです。
――オリジナル作のほうはどんな作品に?
大谷 コメディが描きたいなと思ってはいますが、これから詰めていくところです。
――では、2作とも公式発表を楽しみに待っています! 本日はありがとうございました。
取材・構成:粟生こずえ
\『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』最新第3巻は現在好評発売中!/
『このマンガがすごい!comics ぼくは明日、昨日のきみとデートする』 第3巻
七月隆文(作) 大谷紀子(画) 宝島社 ¥640+税
(2017年7月12日発売)
なお、大谷先生の『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』は現在「このマンガがすごい!WEB」で第1話から第3話までを絶賛公開中だ!
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