言葉による表現が好き。いつか言葉をもっと大事にした作品を……。
――本田先生が愛読しているマンガを教えてください。
本田 大学時代に出会った杉浦日向子さんの『百物語』ですね。初めて読んだとき、ひっくり返るくらい怖くて……。でもまた読みたくなって、ずーっとくり返し読んでます。同じくらい読み返してるのがこうの史代さんの『ぼおるぺん古事記』。これは、文字も全部手書きなのに、恐怖にも似た感動を覚えましたね。何度読んでも、目が喜ぶ感じがします。「これもマンガか!」と思わせる驚きがある。
――とても独特な表現に挑戦していますよね。
本田 フレデリックさんがフランス人のお友だちを連れてお店にいらしたことがあって。その方は日本のマンガをフランス語に翻訳する仕事をしていて、いい作品を探しているというんです。でも、どんな名作を薦めても軒並み読んでる。そこで『ぼおるぺん古事記』を出したら「これはすごいな」と……。おかげで書店員の面目を保てました。
――最近はどんなマンガを読んでいますか?
本田 ちょこちょこ戦争ものを見つくろって読んでますね。『cocoon』(今日マチ子)とか『総員玉砕せよ』(水木しげる)とか。『神軍のカデット』のような架空の戦記も含めて、広義の戦争マンガを。
――海外コミック担当の“書店員本田さん”のオススメを教えていただけますか?
本田 最近は海外コミックの刊行点数が多いのでそこまで網羅できていないんですが、比較的新しいところでフランスのマンガ『最高の夏休み』(原作=ジドルー・画=ジョルディ・ラフェーブル)を。フランスのバンド・デシネというジャンルのマンガはめちゃくちゃ哲学的だったり異常な画力というイメージがあったんですが、この作品はとても親しみやすい。一家族が夏に旅行に行く、ノスタルジックな雰囲気の作品です。
――ありがとうございます、読んでみます。
本田 もう1冊、これは洋書売場で見つけたもので未邦訳なんですが……。ニコラ・ド・クレシーの『俳画』。作者はバンド・デシネのなかではかなり日本人に愛されている作家で、松本大洋さんとか大友克洋さんと親和性が高いです。東京などを舞台に妖怪が町のあちこちをうろついている、マンガというより絵本のような作品。アコーディオンみたいな形の本で、邦訳されてもマンガではなく美術書売場に置かれるかもしれませんが、とにかくすばらしい絵で見飽きないんです。
――いつかこういうマンガを描いてみたい、と思っていることはありますか?
本田 やっぱり自分のなかに文章への憧れがあって、そこには永遠に近寄れないと考えているんですが。でも言葉がずっと好きなので、そういうのをもうちょっと大事にしたマンガを描いてみたいです。
――フェイバリットに挙げた作品には実験的な要素のあるマンガもあるので……。一般的なマンガの形にしばられないものを描く可能性もあるのかなと。
本田 そこに到達できたらかっこいいなと思いますけど、まだ具体的には考えられないですね。
第3巻発売……そして身辺にもろもろの変化あり!?
――『ガイコツ書店員本田さん』、いよいよ3巻が発売になりましたね。
本田 1巻、2巻よりやかましくなってますね。
――私個人としては19話の、いろいろな出版社の特徴を書店員ならではの目線で語るところがめちゃくちゃおもしろかったです。版元を代表する作品を匂わせる描き方もサイコーで!
本田 ここは……キャラの顔をズバリ描かなくてもなんの作品か示せるってすごいなと思いながら模写しました。それがマンガの持つサービス精神なんですよね。虎の威を借るサービスになっちゃってるのが不遜だなと思いますけど。
――「これ、なんの作品かな?」と考えるのが楽しいページです。
本田 優しい見方をしてくださってありがとうございます。
――新潮社のこれ、箱の絵は何かなあと思ってたんですが……。箱の形の死体が出てくるあのマンガだったんですね。
本田 そうです。『悪魔を憐れむ歌』(コオリオニ)のファンの方が、わざわざ「描いてくれてありがとうございます」とメッセージをくれて。ファンに愛されているんだなあと思いました。
――10年間も書店勤めが続いた理由はどこにあるのでしょうか。
本田 居心地がよかったというのがありますね。同僚たちの雰囲気がよかったし上司も寛大だったし……。なんですが、じつは今年の4月末で退職したんですよ。
――ええっ! 何があったんですか?
本田 有休がなくなったんですよ。契約の都合で、簡単にいうと有休の残高がゼロになってしまって。有休がないとマンガが描けないので、申しわけないんですが辞めることにしました。最低な理由ですよね。
――いやぁ、それはしかたないですよね。出勤していたらあれだけ忙しいわけですし。同僚さんたちの反応は?
本田 すごくやさしい人たちなので「これまでよくがんばったよね」と言ってくれて。
――これから専業・漫画家というわけですが……。この節目に『ガイコツ書店員本田さん』のアニメ化が決まったそうで、おめでとうございます!
本田 ありがとうございます。編集さんの見た夢の話とかではないかとまだ疑ってるんですが……本当なんでしょうか(笑)。
――アニメも楽しみにしてます! では最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
本田 エッセイマンガなのに、主人公が愛されようとしてる感がにじみ出ている図々しいつくりになってしまったのに、ここまで続いたのは読んでくださってる方のおかげです。これがデビュー作品のくせにこんなに恵まれていていいのだろうかと。本当に……サンキュー……って思ってます。
一同 (笑)。
――うわっ、今、ガイコツ書店員が目の前に降臨しましたよね!?
今日は本当にありがとうございました。
取材・構成:粟生こずえ
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【インタビュー】本田『ガイコツ書店員 本田さん』 本田先生の正体判明!? 著者が語る書店員のハードフルでハートフルな365日!