人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、本田先生!
全国の書店員さんから「あるあるあるある!!!!」と大共感の嵐を起こした、書店員エッセイコミック『ガイコツ書店員 本田さん』!
書店のコミック売り場での体験を完全ノンフィクションで描いた本作はマンガファンのあいだでも超話題に! 知られざる書店の裏側や裏事情をサラっとドラマチックに描ききる著者・本田先生に、本作についてたっぷりとお話をうかがってきました!
今回は本田先生のルーツともなった、笑いに厳しい家庭環境(!?)のお話や、海外コミック担当の“書店員本田さん”としてオススメの海外マンガをうかがったり、さらには先日発表されたアニメ化のニュースについてもお話をうかがいました!
<インタビュー第1弾も要チェック!>
【インタビュー】本田『ガイコツ書店員 本田さん』 本田先生の正体判明!? 著者が語る書店員のハードフルでハートフルな365日!
豊かなサービス精神は、笑いに厳しい家庭で培われた!?
――このマンガを描いてよかったと思うのは?
本田 本にしていただいて、本が想定よりたくさん売れたので……。私、大学の時に1年留年してるんですけど、その学費の借金を親に返せたことです。
――おお~、いい話ですね。
本田 よくないですよ。そもそも留年すんなって……(笑)。それから自分が思っていたより、同僚がやたら喜んでくれたのもよかったです。
――あとがきマンガでおなじみ、担当編集のアザラシさんは最初に本田先生のマンガに出会った時、どこに魅力を感じたのでしょうか。
編集 本田さんが危機に直面したときの動作、リアクションがすごくおもしろいのはもちろん、マンガそのもののまなざしがやさしいところがいいなと思ったんです。状況、本、お客さん、職場のみなさんに対しての目線がやさしいから、読者は安心して読める。ギャグマンガとして最高だと思ったんです。笑わせられるのは才能だし、それでいて1巻のおまけエピソードみたいに泣ける話も描ける。それから、語彙力があるのも本田さんの強みです。テンポがよくて声に出して読みたくなる。それは本田さんがすごく本を読んでる方だからだと思ってるんですけど……。
――舞台が書店だけなのでもっと単調になりそうなのに、構図もすごく工夫されていて、ドラマティックな空間なのが伝わってくる絵の力も大きいと感じます。
本田 マンガへの自信のなさの表れだと思います。同じ目線で読ませ続ける自信がないので、俯瞰にしたりあおってみたり……。
――それこそサービス精神で、すなわち「マンガ力」ですよね。
本田 だいたいほとんどのことに自信がないので、編集さんにほめさせてどうにかなってるんです(笑)。
編集 どうしてそんなに自信がないんですかね?
本田 基本的に楽観的に生きてるんですけど、うちの家族、主に母親が笑いに厳しいんですよ。母親は頭がすごくよくて……。たとえば母がその日にあった出来事を話し始めると、完璧なひとつの物語になっててオチがある。何か言えば、必ず気の利いた切り返しが返ってくる。父親もおもしろい話をする人なので、私と妹は小さい頃から「人を楽しませる工夫をしないとダメなんだ」という強迫観念があるんです。
――親に話すにも「きょう学校でこんなことがあったよ」程度じゃダメなんですね。
本田 いつのまにか工夫するクセがついてしまって。妹と私で「私よりおもしろいこと言わないでくれる」みたいに張りあったり。
――毎日が「すべらない話」みたいな。
本田 関西圏でもないのに……。
――でも、すごく腑に落ちました。本当におもしろいお客さんに会ったとしても、おもしろく描くのって演出力がいりますから。子どもの頃からの研鑽によって築かれた実力だったんですね。
本田 本屋に勤め始めたら、また同僚もおもしろい人たちぞろいで、ここでもおもしろい話をしないとみんなが聞いてくれない。ダラダラ話してると「その話いつまで続くの?」って言われて「もう終わりです、すみません」って。
本当に単行本を出せるなんて思っていなかった!
――本田先生は子どもの頃からどんなマンガを読んできたのでしょう。
本田 最初に大好きになったのが『少年アシベ』と『南国少年パプワくん』。幼稚園くらいの頃です。どっちも少年が主人公のギャグですね。
編集 不条理とかシュールがちょっと入ってるのも共通項かな。
本田 具体的に影響を受けてるかはわかりませんが、小さい頃からギャグマンガが好きだった気がします。その後は少年マンガ系に行くんですが、狭く浅くですね。あんまり有名な作品を通ってないかも。
――マンガを描き始めたのは?
本田 ノートにコマ割りして描くようになったのは小学高学年くらいです。
――どんなマンガを?
本田 いつもほっぺから血を垂らした人が出てきてたような……。つまり「中2」的な感じです! 当時好きだったのは『魔法騎士レイアース』(CLAMP)とか。
――ああ、その文脈ですか!
本田 身のまわりでマンガ読んでる友だちはそういうのが好きな子多かったんです。『最遊記』とか『テニスの王子様』が好きな子に頼まれて、キャラの絵を描いたりしてましたね。イラストを描くと「うまい」とか「ありがとう」って、ほめてくれたり喜んでくれる。家族もですが、ヘタクソとか言われて心を折られる経験がなかったからずっと描き続けてこられたのかな。本も好きだったので、中高生の頃には小説も書こうと思ったんですが、こっちはどうもダメで……。
――文筆の道も考えた?
本田 いえ。作文が得意とか小説が書けるという人は無条件で尊敬してしまいます。そこには絶対に行けないと思ってるので。言葉は好きなんですけど、長文が苦手なんです。そういうわけで、大学では俳句のゼミに所属したんですが。
――大学入学時から俳句をやろうと?
本田 いえ、最初はそのつもりじゃなかったです。最終的に、長文がダメなら詩とか俳句という選択肢があるなと。
――大学時代には書店でバイトも始め、マンガも描いていたんですよね?
本田 描いてました。でも、二次創作のファン活動中心です。その後もひとりで本をつくったり、友だちや身内で満足していて。正直、編集さんにこうして声をかけていただくまで、「絶対、漫画家になる」という強い想いはなかったです。初めて知り合いじゃない人からの評価をもらって、「いけるんじゃない?」と思えた。すごい最近ですね。
――知らない人からのアプローチって大きいですよね。
本田 マンガをずっと描きたいなというのもありつつ。オンラインで公開したりイベントに出たりをぼんやり続けて。人に見てほしい気持ちはあったけど、表現の方法としては最低限という感じでした。コミティアには出張編集部がありますけど、見せたり見せなかったり……。
――連載の話をもらったときは、一気に高まった?
本田 編集さんは最初から「1冊本を出すつもりでがんばりましょう」と言ってくださったんですけど「そんなこと言って、1話掲載で終わるんじゃない?」とけっこう疑ってたんですよね。それが本当に単行本を出してくださることになって、1巻の時はいいのかなと思ってました。偉い先生のもとで勉強したこともないし、すべて我流でしたから。
――画力もすごく高いじゃないですか。
編集 私は、持ちこみの方に「画力とは何を指すのか」を説明するとき、「何がどう起こってるのかがちゃんと伝わること、キャラの演技力」って言ってます。本田先生は演技力が最高だと思います。
――目がないガイコツのキャラの感情がこんなにも豊かに伝わるってすごいですよね。よく考えたらかぶり物の同僚さんたちも、紙を顔に貼りつけた登場人物さんたちも!
本田 めっちゃ絵のうまい友人が多いので……。劣等感とはちょっと違うんですが、その子たちの足を引っぱる存在でいたくない。この人たちの名を落とすような絵を描いてたらダメだという気持ちはずっとありました。ちょっと話がそれるかもしれませんが、家族にしても同僚にしても、私のせいで恥をかかせちゃいけないという想いは強いです。
――そういえば、笑いに厳しいお母さまは本田先生のマンガを読んでいるんですか?
本田 はい。「骨を生んだ覚えはない」と言われました。
――またうまいことを言う(笑)。
本田 でも、すごく喜んでくれてるんですよ!