人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、尾崎衣良先生!
男なんて、星の数ほどいるけれど、”ダメ男”も、星の数ほど存在する―――。
「元ヤン処女」(これだけでもパワーワード……!)である古賀円、少女マンガに出てくるような”王子様”を追い求めすぎて、なかなか男性とイイ感じになれない福間千代、そしてなぜか彼氏が途切れず、”ダメ男”ばかりつきあってしまう千鳥佐和子。
この3人が、”ダメ男”についてガールズトークを夜な夜なくりひろげる『深夜のダメ恋図鑑』は、2015年の4月に単行本が発売されて以来、TwitterなどのSNSで口コミが広がり、話題になりました。
本作に出てくる”ダメ男”のリアリティに加え、円たちが容赦なくダメ男たちを論破するその姿に、共感する女子が多数続出!
その勢いのままに、「このマンガがすごい!2017」のオンナ編で第4位にランクインしました!
今回は、著者の尾崎衣良先生に、「ダメ男」たちのリアリティを生み出す秘訣や、タイプの異なる恋愛をしている3人の主人公が誕生したきっかけ、そして「ダメ男」にひっかからない方法(!?)などをおうかがいしちゃいました!
王道のかっこいい男を描くのが苦手。その意外な理由は!?
――まずは「このマンガがすごい!2017」オンナ編第4位獲得おめでとうございます!
尾崎 ありがとうございます。これまで一読者として拝見していた「このマンガがすごい!」のランキングに、まさか自分の作品が入るとは夢にも思っていなかったので、たいへん光栄に思っています。
――『深夜のダメ恋図鑑』は単独で単行本になる以前に、大学生バージョンを描かれてますよね(『尾崎衣良初期傑作集 ダメ恋前夜』所収)。
尾崎 はい、出産してしばらく16Pのショートばかり描いていた時期があり、「深夜のダメ恋図鑑」はそのなかのひとつでした。16Pなので、普通の尺の読み切りでは描けないものが描けるということで、好き勝手やらせてもらいました。ショートじゃなければ描けないというか、描かせてもらえないものだったと思います(笑)。
――尾崎先生の長めの読み切り作品とはだいぶ作風が違いますよね。『ダメ恋』第1巻のあとがきで「このシリーズは少女マンガの鉄則“かっこいい男キャラ”を描かなくていいので楽」と書いていらっしゃいますが?
尾崎 王道のかっこいい男キャラ、苦手なんです。なぜか描いてて笑っちゃうんです。
「私の描いたキャラ、これ福山雅治じゃないのになんでかっこつけてんだろう……」みたいな。自分似の息子がかっこつけて女子を口説いてんのを目撃してしまって赤くなる母、みたいな感覚です。
――作中に“かっこいい男”の代名詞として、よく福山雅治が出てきますよね(笑)。社会人バージョンで連載することになったきっかけは?
尾崎 「ベツコミ増刊」で2本描いたきり終了していたのですが、「プチコミック」でショートを描くことになった時、編集さんに相談したら「『ダメ恋』をそのままタイトルごとプチコミックに持ってきて描いちゃいましょう」といってもらえて、続けられることになりました。この編集さんは昔担当してもらっていたこともあって、私の得手不得手をよく知ってくれていたので、こころよく『ダメ恋』を続けさせてくれました。本当に感謝しています。
――円、千代、佐和子それぞれに性格が違うなりのダメ恋エピソードがありますが、モデルはいたりするんですか?
尾崎 特にモデルはないです。佐和子は「つきあってる男」とのダメエピソードの語り手、円は「つきあってない男」とのダメエピソードの語り手、千代はこの2人の毒吐きの中和剤みたいな立ち位置です。
――唯一本人に問題アリで恋愛が発展しないのが千代ですかね。でも、リアルな恋愛をご無沙汰しすぎると、ちょっとしたことが気になってしょうがないってありそうな気がします。読者から共感の声が多いキャラは?
尾崎 円と佐和子が同率くらいですかね? 男にちゃんといいかえすあたりが共感の理由でしょうか。ただ、佐和子は「なんで諒くんとつきあってるの?」という点ではまったく共感されてない(笑)
――恋人をお母さん代わりにする男ってけっこういますけど、諒くんはその典型ですね。同棲を始めてからさらにそのダメさが露呈しまくってますが、それでも佐和子が別れないのは?
尾崎 別れたら諒くんがダメっぷりを発揮する場がなくなるからですかね(笑)。そしてこんなダメ男と別れないところがまさに『ダメ恋』のタイトルに偽りなし、ということで……。
「あるある!」と共感して笑ってほしいと思いながら描いてます
――女性を下に見たり、いまだに「家事は女性がやって当然」と思っている男性キャラが多く登場しますが、このあたりは実感からくるものですか?
尾崎 最近は昔に比べて家事に協力的な男性も多いとは思いますが。潜在的にというか根本的に、そうした考え方を持っている人は男女ともにいると思うんです。
――たしかに女性でもいますね。
尾崎 私は九州出身で、時代的にもそういうエラそうなオッサンたちがまわりにたくさんいたんですが、さらに「女はこうあるべき」という観念を無意識ながら押しつけてくる女性も多かった気がします。そのとき感じたモヤモヤが、今マンガを描くにあたりとても参考になっているので……何がマンガを描くパワーになるかわからないものですね。と、話をまとめてみましたが(笑)。
まあ、それをいい出したら男性だって「男が働いて当たり前と思うな」「力仕事して当たり前と思うな」などいいぶんがあるとは思うんですけどね。
――『ダメ恋』の見せ場といえば、ヒロインたちが男性をぐうの音も出ないほどやりこめるシーンです。これをハイライトとした構成は当初から決めていたのですか?
尾崎 いいえ、まったくです。「こんなダメな恋してます」「こんなダメ男がいました」というエピソードの羅列に「あるある」「いるいる」と共感して笑ってもらえればと思って描き始めたのですが、「反撃にスカッとした」と、思いもよらぬところを褒められて少したじろいでおります。
――ブチギレる顔も迫力がありますが、怒ったそぶりを見せずに微笑みを浮かべてイヤミでグサグサ攻撃する場面にゾクゾクするんですよ。現実的に有効そうでもあり、ここがもっとも読者が溜飲を下げるところでは?
尾崎 話の流れで描いているので、あまり「攻撃」とは意識していませんでした。ネーム中、相手の男の行動に対して、女子に「怒り」の反応をさせたけど、「あ、違うな」と思ってギャグ対応に変更したりとか、話の流れでしっくりくるかたちで描いているつもりなのですが、それで結果として「攻撃」対応が多くなってしまってるんでしょうか。
――先生ご自身も、身に覚えがありますか?
尾崎 私自身は最近はあまりこういう反撃はしないです。「あ、無理だ」と思ったら静かに離れます。怒るのもパワーいるんですよね。そういう元気は今はないです。そしていつまでも怒りを心のなかにくすぶらせるという(笑)。だからこんなマンガを描いているのかもしれないです。