同人+アニメ+マンガを取り巻く世界のすべてが好き!
――はとこが1996年にタイムスリップしてからの「働かなくても良いでござる〜」には、一気につかまれました(笑)。
佐々木 ここは描きながら笑いが止まりませんでした。ズアッとした煙が好きです。ネームをつくっていた当時はアルバイトをしていたので、もしタイムスリップしたら「やったー!労働から解放されたー!!」ってまっさきに思うだろうなと。今は辞めてしまってお客さんとの会話とかいっさいなくなってしまったのが、ちょっとさみしいです。いろいろなお客さんと話すのが好きだったので。
――「96年当時のリアルな《中学生》オタク事情」が紹介されるのも本作の柱ですが、これは佐々木先生ご自身の体験そのものですか?
佐々木 まんまではないですけれど、私が触れてきたものです。出てくる雑誌やアンソロジー、サークル会報誌に参加したり、コピー本やコピー便箋や、16時に窓口が閉まる郵便局へ小為替を走って買いにいったりすることも含めて、同人+アニメ+マンガを取り巻く世界がすごく好きでした。これからもできるだけ地方の事情を盛りこめたらと思っています。
――1話に登場する「雑誌切り抜き手づくりカレンダー」にはかなりグッときました。子どもの頃の手づくりアイテムって愛おしいですよね。
佐々木
私はマンガの扉絵をそのまま壁にポスターみたいに貼っていました。あと、カラーの投稿はがきコーナーのイラストを切り抜いてまとめたり! それを小袋に入れて学校へ持っていき、参考にしてお絵かきとか! ……な、懐かしくなってきた……!
「アニ●ディア」の投稿コーナーだけを集めて閉じた「投稿コーナーだけの本」みたいなのをつくっていましたっけ。
――作中に登場する「私の考えた設定」は、先生が当時描かれたものがモデルになっているんですよね? いかにも90年代後半という感じで大爆笑です!
佐々木 持っているノートのなかから、ちょうどいいものを見繕ってトレースする羽目になりました。なので、このページだけは、自分でも直視できなくて(笑)。この回の最後の最後まで手がつけられなくて、作業もだいぶたいへんでした。
――身に覚えのある読者は多いと思います。私もですが(笑)。
佐々木 小学生当時のノートを1冊も捨ててなかったのですが、読み返してみたら……。まさか本当に「背中から羽が生えて」たり「片目つむって涙+背景に飛び散る羽」、「悪魔モチーフ」が出てくるとは思わなくて、なんでこんなに胸がハヒハヒするのか苦しみながら描きました。
――こういった当時モノを「黒歴史」として一生封印する人もいるかと思いますが、なぜここまでドーンと載せようと思ったのでしょうか?
佐々木 これは交換ノートでしたからね! 私は交換ノートを「友だちと絵を描きあった楽しい思い出」、そして冊数を重ねるたびに自分の成長も記録される大切なもの、と思っているので「恥ずかしい! ちょっぴり胸が痛い、でも友だちとやってたワクワクもあったよね!」みたいな感じでとらえているんだと思います。封印なんてもったいない! はー! でも恥ずかしいですよね!
――ほかに佐々木先生ご自身のエピソードを使っているところはありますか?
佐々木 みのりんのペンネームの「魅野璃(みのり)」は私が中2の時につけたペンネームの一文字違いです。恥ずかしい……。
――はとこは、ズバリ佐々木先生がモデルですか?
佐々木 ん――――……意識的に「はとこを私として描こう!」と思ったことはないです。が、地が出てしまっているんでしょうね、わはは! 第1話を見た時点で、4人ほどから「佐々木さん本人を見ているみたいだ」といわれた記憶が蘇りました。
オタク台詞が自然とわき出て止まらない!?
――佐々木先生は、どんな中学生でしたか?
佐々木 あんまり頭がよくなかったんですが(笑)、勉強・部活・交友関係など中学生なりの悩みを抱えながらも、楽しく友人と交換ノートしたり、初めて同人誌即売会に参加したり、先輩に同人を教えてもらったりしてました。
――はとこのいかにもオタクらしい喋り口調、振り幅の広い表情がめっちゃ楽しくて、このグルーヴだけでもグイグイ読まされます。
佐々木 自身がオタクなので、オタク台詞ばかりは底なしにわき出てきますよね! ただ、専門用語が出すぎると、わけがわからなくなるので、言いまわしには工夫が必要です。はとこの顔は……もうこれは長年オタクとして色々なコンテンツに触れているので、絶妙な顔になってしまうんですよねぇ……。
――96年当時と現代では「オタク」の意味も、とらえ方もずいぶん変わっています。佐々木先生個人としては、どのような違いがあると感じますか?
佐々木 昔は「オタクであることに対して弁解が不可能」で、偏見も強かったように思います。だから友人も私も含め「オタクであっても一般人に見えるように秘めて隠して」いました。バレたら普通の扱いをしてもらえない……みたいな張り詰めた空気は持っていました。今はゲーム、アニメ、ネットと枝葉に分かれ、昔「オタク」とされていた行為が分散されていて、また人口も増え、SNSでもどんどん意見が発信できる。96年に肩身の狭い思いをしてきた子が大人になって、「オタク」の偏見を解く。そういった姿も見られます。
――本当に隔世の感があると思います。
佐々木 職場の同僚のお子さんの間で「学校で初音ミクの曲(千本桜)が流行ってる」と聞いたときは時代が変わったな、と思いました。今の小中学生は「オタクは変なことじゃない」という意見を持ってたり……してほしいですね(希望)。
――佐々木先生が中学時代にタイムスリップしたら、何をしたいですか? やり直したいことはありますか?
佐々木 人を大切にしたいです! あとは勉強したいです! やり直したいことは、小学校の頃、先生の話を聞かないで動物園で迷子になったので、なんとか先生の話を聞きたいです!(笑)
『タイムスリップオタガール』 第3巻
佐々木陽子 フレックスコミックス ¥600+税
(2018年4月12日発売)
取材・構成:粟生こずえ
■次回予告
次回のインタビューでは、『タイムスリップオタガール』を読んだ読者さんからのファンレターに、佐々木先生号泣!? さらに4月12日に発売された最新第3巻の見どころなど、おうかがいしました!
インタビュー第2弾は5月14日(月)公開予定です! お楽しみに!